かめさんの詩集
第一弾
空気に触れると
衰弱して
騒音になる
言葉。
母の胎内で
医師の 出生前の診断を
聞いて 僕は思わず
羊水の中へ
コトバ を落としてしまいました。
そんなこともありました
アフリカの南で
アウストラロピテクス・ダミダスが
なんどもなんども
二足歩行を
躊躇しているのを
木の蔭で 僕は見ておりました
誰かが いつのまにか
ボクのレッドデータ‐ブックに
ホモ・サピエンス と
書き加えておいてくれたのを 僕は
知りませんでした
土に還えっていった
虫たちの鳴き声を
鳥たちの囀りを
獣たちの咆哮を
採集(アツ)めて
今日も 僕は
破れた捕虫網を担いで
野山を歩きまわっておりました
そうです
原始地球にぶっつかって
とびちった 天体の破片が
月になりました
そんなこともありました
屠殺場に連れていかれる
牛たちの
生き物の悲しさが
そのまま沈んでいる
深い深い目に
吸い込まれていって 僕は
原罪を連れ戻して 参りました
その時 僕は
どこかの星にきっとある
生命の痕跡に
そっと
ヒトの優しさを帰しに行く
計画を立てました
落ち葉を掻き集めるように
塵芥(ゴミ)捨場からはみだした
コトバ
を拾いあつめて
花咲爺さんの使い遺した灰に
自分たちの遺灰を加え混ぜて
綾なす織物を織るように
アルツハイマーの人たちが
現代の童謡を口ずさみ始めておりました
母の胎内に宿る
ずーっと以前にも
幾度ともなく訪れたことのある
懐かしい枯れ大木が凛として立つ
丘で 僕は憩い
その旋律をハミングする
これからは
いたるところの無縁仏に
できるだけ多くの国々の無名戦士の墓に
お詣りして
ボクのディ エヌ エイの
配列を整えてこなければなりません
疲れたら一休みして
どこかで
振り向いて未来を見る癖のある 僕は
これから起きる
BIG BANG に
胸を躍らせているでしょう
亀井芳雄
どうぞ忌憚のないご批評を賜らんことを。
人の存在の現実はそれ自身はつまらない。この根本的な偉大なつまらなさを感ずることが詩的動機である。詩とはこのつまらない現実を一種独特の興味をもって意識さす一つの方法である。俗にこれを藝術という。
西脇順三郎