イースラント。その世界でも北方に位置する、地力に乏しい孤島が主人公のいる場所で
す。百年ほど前に、少し離れた大陸の国、ノルトヴェークから植民が開始されました。そ
の時代に、古い神々に対抗するかのように新しい「白き神」の信仰がもたらされ、その神
に跪くことをよしとしない人々が逃れたことから始まった植民でした。海を隔てていたこ
ともあり、さしたる争いはなく、元をたどれば同族であったことから交流も行われていま
した。
 しかし、ノルトヴェークが争乱の時代を経てオーラフという王を戴いたとき、その均衡
は崩れました。彼は「白き神」を絶対視し、ノルトヴェークに残っていた古い神々の信者
を弾圧しました。その苛烈さは、神像を打ち砕いたり神殿を焼いたりするにとどまらず、
信者を焼き殺したり、蛇を無理に飲ませて内蔵を食い破らせたりする残虐行為に至るもの
でした。
 耐え抜いて信仰を護ろうとする信者もいましたが、おおかたの者は古い神々をを捨てま
した。由緒ある土地から神殿が消え、人々の信仰心が衰えたことから古い神々の力は衰え
始めました。神々の衰弱を知ったオーラフは、イースラント侵略を計画します。
 
 イースラント中心部に、古い歴史を誇る一族の末裔の女性、アウズが住んでいました。
神々を先祖に持つと言われ、占いや魔法に長けた女性を数多く輩出した名門です。彼女は
オーラフの侵略計画を知りましたが、故地から離れ、オーラフの暴虐を恐れて改宗しよう
と言い出す者まで出る今のイースラントでは、彼女の能力も微々たるものです。また、い
かに名声と資産を持っていても、女性では公の場での力は限られます。
 アウズは、伝説に登場する戦乙女に着目しました。様々な力を持ち、戦場で男達を鼓舞
する戦神の仕え女です。力の衰えた自分に、神を呼び出すことは出来ない。だが、神の仕
え女ならば出来るかもしれない。もし神々のいらえ無き場合は、覚悟を決めよう。
 そして儀式の場に現れたのは、イースラント、ノルトヴェークどちらの土地でも見るこ
とのない闇色の髪と大地の瞳を持った少女でした。
 
 この少女に、極寒の島イースラントの運命は託されたのです。
 
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