シュミレーション2003/6/10
モニターの前に広がるコレは、 現実の光景ではない。

だが3Dゲームのような画像でも・・・背筋に冷たいものが走る。

敵を殲滅する事が目的である事は、百も承知していた。
しかし、自分の命の掛かっていない…いや本気でやるべきなのだが ・・・
シュミレーション上にあって、
破壊された機体は原型を留めず
燦然とばら撒かれた、破片と化していた。

こんな凄惨な結果を見たのは、初めてだった。


出現MS機 50
艦隊 3
所用時間 25分
使用弾数 38

撃破数 50(53)

残存兵力 0


生存者   0



そのありさまを、数値が冷静に分析していく。


Level master....highest


最後にその文字が白く浮びあがると、結果データを書き込んだディスクが挿入口から吐き出された。

すっと二本の指がそれを抜き取り、胸のポケットに落とすと
その惨状を画面の中に生み出した本人は、被っていたダークメタリックのバイザーに手を掛け

頭から外し、一つ頭を振った。

栗色の髪がさらりとこぼれ、無造作に顔に掛かる。


「キラ」

相変わらず容赦無いな。
言葉には出さなかったが、キラには伝わったようだった。
表情を変えること無く、その紫の瞳が銀の容姿を映す。
そして、ぽつり
「情けをかけて残しても、結局やる事が増えるだけだから」
と冷酷とも思える言葉が返ってきた。

それでも。
「冷たい」印象を受けないのは
その容姿の所為か。
それともいつもの「彼」を知っているからだろうか。



どこかぼおっとして
決して好戦的ではないのに

一度標的に定めたもの対しては、容赦が無い。

何の残骸なのか分からぬ程に、完膚無きまでに破壊された中に佇む
彼の愛機は、連合に白き死神と呼ばれているのだと聞いた。


「お前は憎くも無い相手に、なぜそこまで戦える?」
「・・・戦い好きなのかな」

――嘘だ。
返る言葉に、微かに眉を寄せる。


「性質悪いよ、プラントの平和なんて二の次だし。純粋な…君たちの想いとは違うものだから。
・・・酷い人間だよね」


お前は気づいてないのだろうか
そういう時の表情が酷く哀しいもので
こちらの胸を締めつけるのだということを

引き寄せられるように手を伸ばし、その唇に触れる
キラの手からバイザーが落ちて床で音を放つ。

・・・いつものキラに表情が戻ってくる。


「・・・…触ったら、君が穢れる」


キラは離れた唇の隙間から、掠れた声で囁くと
泣きそうな顔になりながら眼を細める。

その顎を捕らえながら、逃げることを許さない眼差しで、瞳の奥を見つめ返す。

「お前は穢れてなんかいない。こんな綺麗なモノが」

自分の存在が、キラの求める存在では無いと分かっていても
身代わりにすら・・・ならないとしても

オレは、お前を・・・・・・

「イザーク」

力の無く自分の名を呼ぶ声を
再び唇の中に消した。