負けず嫌い王 ■2003/07/27 |
ベットに座り込んで携帯端末機を弄っていると、入口の扉が開いて乱暴な足音が近づいて来た。 バッサリと乱暴に上着を脱ぐ音、怒りを何とか自分の中で消化しようと吐き出される溜息。 画面から、ちらりと目を上げると、乱暴に頭を一つ掻いて眉間に皺を寄せるアスランが、 クローゼットに服を叩き込んだ所だった。 (・・・・・・・・・・・・・・・・負けたかな) 触らぬ神になんとやら。 キラは画面に目を戻すと、あえて知らぬ振りを決め込んだ。 イザークとチェス勝負をする、という事はディアッカから聞いていた。 「もう、キラがここに来る前からの伝統行事。自分トコでやってくれればいいんだけどさぁ・・・最悪よ?」 特技、掃除と壁修理って履歴書に書けるぜ、オレ。 心底イヤそうな顔で、ディアッカは額に手をついて肩を落とした。 「偶にゃぁ、負けてやるってのも処世術の一貫だと思うワケ。オレ的には。けどアスランの奴 『そんなので勝ってもイザークはもっと怒るだけだ』とかいって手加減一つしねぇし」 「確かにイザークは喜ばないとは思うけど・・…でもソレ、単に負けたくないだけだって。自分が」 「・・・・・・・・やっぱり?」 「間違い無し」 キラは頷くとクスクスと笑い出す。 「争う価値無しって人には無視を決め込むタイプなんだけど。根本は、筋金入りの負けず嫌いだから」 「へぇ・・・けどさ、前にイザークが勝ったとき『おめでとう、負けたよ。』みたいな事言われて 手ぇ差し出して微笑まれたって、アイツキレてた事あったケド?」 「アスラン・・・そ・・・・・そんな事言った・・・の・・・・っ」 キラは口許を咄嗟に押さえると顔を背ける。 そして暫くそのまま肩を震わせるが・・・・耐え切れなくなったのか弾けたように笑い出した。 「それ無茶苦茶無理してるよ!絶対後で壁蹴ってるよ・・・っく・・・あははははははは、っおかしー」 ディアッカは茫然と見つめる前で、キラは体を屈め傍の壁を叩いている。 まぁ、でも。 暫く笑うに任せていたキラは、涙を拭いながらディアッカを見あげる。 「イザークがそれだけ勝てないってのも、変だけどね」 「アスランのが能力上って事でしょ」 苦笑するディアッカに、キラは軽く首を振る。 「比べられるトコに居ないし。あの二人。負けず嫌いは一緒かもしれないけど、戦い方のタイプが 違うから・・・イザークがアスランに巻き込まれてるんだよ」 「ふぅん・・・」 曖昧な相槌を反すディアッカに、 「イザークに言っておいて。アスラン相手に全力出す事ないよって」 キラは軽く片目を細めてみせたのだった。 (イザークの場合、少し人を見下すくらいの力加減でちょうどいいと思うんだけどな) キラはパチパチとキーを叩きながら、二人がチェス勝負をする様を想像する。 アスランは自分の戦法に人を巻き込める強さを持っているから、仕方ないといえば仕方ないのだけど、 イザークも本来の力を以ってすれば、連敗はありえない筈。 「・・・ん?」 不意に画面が暗くなった。 顔を上げると、真正面に、不機嫌丸だしのアスランの顔がアップになってそこにあった。 「キラ。チェスしよう」 「・・・・・・・今から?」 「あぁ。ホログラムの奴でいいから、ソフト持ってるだろう」 「あるけど」 ・・・負けたのが収まらないのだろう。キラは内心嘆息する。 だからといって、自分に勝ってイライラを解消してやろうってのは気に食わないけど。 キラは端末の画面を押して仕舞うと、嫌味にニッコリと笑いかけてやる。 「・・・君曰く「邪道の王道」を行く僕相手でいい訳だね?」 やるからには、相手が不機嫌であろうが何であろうが、負ける気で勝負しない。 頷くアスランに、キラは軽く指を鳴らすと、 ゲームボードを用意する為ベットからヒラリと飛び降りた。 |