squall ■2003/07/09

イザークは、見えなくなった同僚の姿を探していた。

ここの部隊と合流して、お互いにまだ日が浅い。
まさか、迷子…ということも無いだろうが…。
ぐるりと視線を巡せ、通りかかった整備兵の一人を捕まえる。

「キラを見なかったか」
「キラさんですか」

男は、イザークに一対一で話しかけられるという事態に、すこし落ち付かない風を見せながらも、
外を指差した。

「外へ歩いて行くのをみましたよ」
「外?」

顔を向けるのに合わせ、さらりと銀の髪が揺れる。
視線の先、格納庫のシャッターの隙間から見えるのは

低い雲が流れを速めた、暗い空。

イザークは僅かに目を狭め、短く礼を残すと、軍服を翻した。


思い出したように響く雷鳴。
走る閃光。

・・・プラント育ちには余り縁の無いもので。
正直、あまり気持ちのいいものではない。

イザークは苦い顔をしながら、その姿を探す。


「何処に行ったんだ・・・」

ぽつり。
頬に雨が当たる。

そして、一際大きく鳴った雷の後、降り出した雨は視界を煙らせた。

髪から滴る水滴をかきあげながら、良くない視界に目を凝らすと


何も無い所に、ポツンと一人立っている
キラを見付けた。

空を仰ぐその 軍服は、雨を吸って黒く変色している。


「キラ。何をしている」


キラは落ちる雨を浴びるように手を広げると、静かに唇を開いた。


「血が落ちないかなぁ…って」
「…」

思わず言葉に詰ったのが伝わったのか、キラは少し上向く感じで、肩越しに振向くと
その表情を困ったような微笑に変えた。


「嘘」


髪から零れる雨粒が、頬を伝い唇を伝う。


「・・・黙らないでよ」


イザークはその流れを追っていた目を伏せ小さく息をつくと、 体調管理も任務の内だ、と
羽織っていた軍服を脱ぎ、その頭に投げる。
キラはイザークの軍服を大人しく被ったまま、傍らまで歩いてきたイザークを見上げた。

「君も、ずぶ濡れじゃないか」
「お前を探してこうなったんだが?」
「・…ゴメン」
「ほら、戻るぞ」

キラの腕を掴むと、自分の方に引き寄せ歩き出す。

・・・普段なら、引っ張るなとかいう言葉の一つでも返ってきそうなものだが
キラは黙って腕を引かれている。


イザークもそれ以上追求する事も無く、
二人は雨に包まれながら艦へと戻った。