blueberry■2003/5/7 |
視界の端に、見慣れた栗色が映った。 「非番なのにすまない、キラ」 イージスのシートに沈み、システムと睨み合ってたアスランは、声だけを投げかける。 しかし …待っても返事がない。 もしかして違う奴に話掛けたのかと思い,視線を上げると…やはりそれはキラで。 イージス外のタラップに立っているキラは、何とも言いがたいといった表情で此方を見ていた。 「どうしたんだ?」 怪訝そうなアスランのその問いにも答えず、キラはしかめっ面のまま、口を動かしている。 どうも何かを口に入れていて、喋れないらしい。 「何を食べてるんだ?」 問いを変えたアスランに、キラまだ暫く口を動かした後、ベ、と舌をだしてみせた。 舌の上には、小指の爪程になった錠剤。 そして、キラはそれを口の中に戻すと、一瞬戸惑ったあとに、コクンと嚥下する。 「・・…………………にが…」 キラは口端を引いて、片目を細めた。 「どこか悪いのか」 眉を潜めるアスランに、キラは首を振る。 「僕は大丈夫なんだけど。最近艦内で流感みたいなのが流行ってるから、飲んどけってディアッカに無理矢理 放り込まれたんだ。けどさ・・・これ、デカくて口の中である程度溶かさないと飲みこめないんだよね…。 その上遅溶性だし。とてつもなく不味いし。だから噛むなんて言語道断だし。アスランもその内掴まるよ。きっと」 早く君も体験しなよ、キラは達成したものの優越感を湛えて笑ってみる。 そして、外から体を乗り出しモニタを上から覗きこむように体を浮かせると、表情を切り替えた。 「で、何処だっけ」 「ああ、ここのMAからMS形態に戻る時の交換数値なんだけど」 俯いた拍子に、キラの髪が画面を指す自分の指にさらりと掛かった。 シャワーでも浴びたのだろうか。仄かに漂ってくるシャンプーの香りが鼻をくすぐる。 「・…え、何処?…イージスは複雑だから…」 そう言いながらも、キラの表情が興味あるものへと変わっていく。 指がコンソールの上を走り、空いた手は口許に収まる。 「場所、変わろうか」 「ん…いい…」 もう違う世界に行ってしまって、返事もそぞろだ。 伏せ気味の睫奥の瞳に、白い数の羅列の流れが映り込む。 キラがこういうことに没頭し始めたら、此方の存在は無いも同然だ。 できる事といえば、邪魔をしないことだけ。 アスランはキラが熱中してこちらに気付かないことをいいことに、 その相貌を遠慮無く眺めさせてもらう事にした。 「・・・・うん。こんなもんじゃないかな。一度見てみて」 キラの手がやっと止まる。 時計に目を落とすと、20分ほどの事だったらしい。 アスランは軽くトレースを走らせると、気になっていた所はクリアされていた。 「助かったよ、キラ」 「1、2箇所変えただけで、殆ど弄ってないよ。」 軽く肩を竦め、モニタから離れようとするキラの腕を、アスランが待っていたという風に引っ張った。 そして、その掴んだ腕を引き寄せると、唇に触れる。 アスランからキラへ。 口伝いに移したもの。 「んっ、何これ」 唇から解放されたキラからほんのり香るのは、ブルーベリーの香り。 「前に貰ったのを忘れていたんだ。口直しにどうかと思って」 「…………………甘い」 薬の時と同様、キラの表情がまた歪んだ。 キラは…実は甘いものが苦手だ、というのは知っていたのだが。 「苦いよりはマシだろ」 お礼半分、嫌がらせ半分といったところか。 「うん、まぁあの薬の味よりは…」 キラも口を動かしながら、「お礼を言うべきなの?これは」と真剣に首を傾げてみせた。 |