対決2003/6/14
片や銃を手馴れた風に、手の上で遊ばせ
片やゴーグルを装着し、髪を払う。

そして響く、
鋼が起きる硬質な音。

黒光りする銃口が向かう、その先にあるのは、紅の軍服。
イザークとアスラン、互いが銃の照準を合わせる。


と、その場面を切り取るように、扉が開いた。
入り口で立ち止まったニコルはゆっくり瞬きをする。
そして一瞬の間が空いた後、手に持っていた書類が雪崩をうって床へと落ちた。

「なっ何やってるんですかっ!!」

ニコルが、顔を引き攣らせ声を上げた。


「一度、お前とはハナシをつけなければならないと思っていた」
「・・・面白い。珍しく気があうじゃないか?」

二人には互いしか見えていない。
一触即発。
緊迫した空気。

「キっキラっっ!!」

そんな緊急事態にも関わらず、床に座りこんで傍観している同僚に、ニコルは慌てて駆け寄った。

「一体どういう事なんですか!!」

二人を指差して焦るニコルに、キラは手に頬を埋めたまま視線を上げる。

「勝った方がベットで上か下か・・・」

ぼそりと呟くキラに、ニコルは本気で後ずさる。

「へっ!?」
「・・・じゃなくて」
「こんな時に、笑えない冗談言わないで下さい!!」

泣きそうになりながら叫ぶニコルに、キラは無表情のままで視線を二人に戻す。

「そのくらい、つまらない事だよ」

その声が、微妙に怒っていると感じるのは気のせいだろうか。
「一体、何が・・・」と聞き募ろうとした時、

「キス権だとよ」
突如降ってきた声に、ニコルはその方を振仰ぐ。
そこには、ドリンクを両手に持ったディアッカが立っていた。

「何ですって?」
「これで勝った方が、キラにキスして貰えるんだとよ」

ほい、とキラにドリンクを手渡しながら、ディアッカは片眉を上げる。

「ああ、そういう事ですか・・・って!それなら余計止めて下さいよ!!キラ!」
「面白そうだなぁ、と思って」
「はあ!?」

ちびり、とドリンクのふちに唇をつけ、上目遣いの紫の双眼がニコルの姿を映す。

「人を無断で賭けの対象にしてる馬鹿のどっちが勝つか・・・興味ない?」
「ありますけ・・・いや!でも殺し合いは!!」
「バーカ、する訳ないだろーが」

何処だと思ってんの?ディアッカはニヤニヤと口許に笑いを載せ、親指で背後を指す。


銃を互いに向けていた二人は、安全装置を同時に外すと
するりと体の向きを変え、数メートル先にある射撃の的に向けて弾を打ち込んだ。

一瞬遅れて響く、鋭い銃声。
髪が衝撃に揺れる。

放たれた5発の弾丸は、一発目が空けた一点のホールの中に吸いこまれた。
寸分の狂いも存在しない
残ったのは、硝煙の香りと互いの的のど真ん中に開いた一つきりの穴だけ。



「さすが〜、上位争い組だけの事はあるよね。で、ザフト軍、影の一位さん感想は?」
「いつもより集中力1.5倍増し。恐るべきヤマト効果って感じ?」
「もうちょっと距離足したら、ディアッカ一人勝ちだろ。参加すれば良かったのに」
「オレも命が惜しいんでね。キラこそ自分が相手してやれば良かったんじゃないの?」
「駄目。射撃は苦手だから」

勝負が付かなくて睨み合う二人。
そんな二人を見ているのか見ていないんだか解らないが、呑気に話を続ける二人。

一つ確実なのが。

一人で騒いでいた自分がとても滑稽で、無駄な労力を使っただけだ・・・という事。

「・・・・・・・・・はっ、馬鹿馬鹿しい。勝手にやってて下さい」

ニコルは怒りを消化するように息を吐くと、荒々しい手付きで書類を拾い上げ、乱暴な足取りで
部屋から出て行った。





イザークとアスラン。
その勝利の女神のベーゼを手に入れたのはどちらか。

・・・結局延々と勝負がつかなくて、痺れを切らしたキラが傍のディアッカにキスをして強制的に
勝負を終らせた。

というのは、怒りに震えた二人から逃げるディアッカを背に微笑むキラから聞いた、結末だった。