戦友■2003/8/11 |
酷薄的な白の照明 11対の視線が集中する中 二人の青年は向かい合う。 「こんなに徹底して、潰さなくてもいいんじゃないですか」 口を開いたのは、淡いグリーンの髪が印象的な青年だった。 普段は甘い相貌をかたどる筈の眉をひそめ、指し示した先。 巨大なスクリーンに、凄惨な戦いの軌跡が途切れる事無く映し出されていく。 その光景は、いくら相手が「敵」だとはいえ、思わず眉を潜めるほど徹底されていた。 終焉の中にあって、不気味な程の存在感を放つ三種の艦影。 その光景にざわめく周囲を凪ぐように返るのは、澱みを一片も含まない声だった。 「あちらは潰す気でくるんです。慈悲で残した所で今度は此方がやられます」 レンズに光が反射して、その眼差しの先は見えないが 強い光が前髪に影を落とす、その奥の凛とした横顔。 友好的とは言えない視線を平然と受けとめ、言葉を続ける。 「連合が現実を認めずに此方を『下』と見ていてイーヴンで来る気が無い以上、話し合いの壇上に 引きずりだすには仕方がないでしょう。 このまま、不毛な戦いを続けても、損害が出るだけだと、 あの固い頭が理解するまで、我々が武器を捨てることはできない。手をゆるめれば敗北と見なされ …どうなるかは想像に易い、と思われますが?あちらは我々を、同じ人間だとすら見ていないんですから」 揺るぐ事の無い姿勢に、グリーンの髪の青年は卓上で手を握りしめ挑むように言葉を吐く。 「・・・でも無駄な殺戮は避けるに越した事は無いでしょう。もし話し合いが成功したとしても 後でこの戦い自体が、裁かれる対象になりかねないのですよ」 目が、言葉が向けられた先に注がれた。 すべての視線の中心で、飴色をした髪が揺れる。 遮るものの無くなった奥にあるのは、息を呑まずにはいられない、透明な微笑。 「そんな甘いことで解決できるのなら、とっくに戦争は終わっているんじゃないですか。アマルフィ議員」 しかし、それは声音に似て甘く溶けるものではなく、覇者のそれだった。 「キラ!!」 車に乗りこもうとしていた背後から、声がかかった。 キラは、車のドアを開きかけていた手を止めると、ゆっくりと振向く。 そこには息を切らせたニコルが、膝に手をついて呼吸を整えていた。 「ニコル」 さっきまでとはまるで違う・・・柔らかい声が名を呼び、表情を覆っていた眼鏡が外される。 遮るものの無い、優しい目 ニコルは、耐えられないという風にキラを抱きしめた。 「すみませんっ」 「なんで謝るの」 「だって、貴方達の行動は全て僕達と繋がっている…なのに、全ての責を貴方達に追わせるような事を」 「別に演じているわけじゃないから、ニコルが気にすることじゃないよ。それに自分がさして大切だと 思わないものに、命をかけたりしない」 キラは真横にあるニコルの方向けて微笑みを浮かべる。 けどっ。ニコルはキラの肩に顔を埋めたまま、さらに抱く手に力を込めた。 「怖いんです。キラを殺すのは…ナチュラルではなく・・・僕じゃないのかと」 「ニコル・・・」 本当に震えだしたニコルの肩を、宥めるように擦り、 大丈夫。 口の中で呟きながら、キラはニコルの髪にそっと唇を落とす。 「イザークもディアッカも居る。僕達は戦場で・・・その時を待ってるから」 「・・・・・・はい。分かってます。・・・けどキラ憶えておいてください。 僕は、貴方が死んで成り立つ平和に…興味はありませんから」 「・・・君がそれを言うのかな」 涙に濡れた強い目に・・・キラは困ったように笑うと、「憶えておくよ」とその耳に囁いた。 |