■2008/1/27 |
ブラックガラスのカウンター。 水に浮かべられた丸い蝋燭の灯が、ゆらゆらと手元を照らす。 「目ぼしい子はいる?」 「さぁ?どうだか」 はいよ、と差し出された書類の束。 イザークはそれをディアッカの手から受け取ると、流すようにめくっていく。 キラは小気味よく捲られていく紙の束を横目に見ながら、持っていたグラス傾けた。 「女の子増えてきたね」 「昔はそれほどでもなかったけどな。アカデミーでも殆ど見なかったし。今や女で艦長ってのも出てきてる くらいだしな」 「タリア・グラディス艦長だよね。前に一度話ししたけど、いい人だったよ。綺麗だし」 「それ、オレの台詞じゃね?」 「僕だって綺麗なものは大好きです。」 バシ。 言い切ったところで、紙の束が茶色の髪の上で跳ねた。 拍子に手元のグラスの中身も揺れる。 「った」 一言文句を言おうと口を開きかけるが、「そんな無駄口を叩く暇があるのか」という無言の圧力に、 キラは大人しくグラスを置く。 確かに、別の隊を率いる三人がこうやって映像以外に顔を付き合わせることができるのは、奇跡の 確率で・・・まあその確率も、それなりのリスクを伴ってこそ初めて発動するわけなのだが。 ちなみに今回も逃げ切れなかったイベントがこの後幾つか控えていて、ここに居られる時間は、 30分も残されていない。 キラは諦め顔で仕事モードのスイッチである眼鏡に手をやると、左に座る同僚に向けて手を開いた。 イザークはキラの手に書類を置くと、シガーケースから一本取り出し口にくわえる。 「それだけ人材不足ということか」 「ま、元々能力主義だから、女だ男だで差別すんのもおかしな話ではあるんだけどね」 ディアッカは手の中に点した炎を、イザークに寄せる。 「このままじゃ出生率云々の問題だけじゃ済まなくなるのは確かじゃないの?この御時勢だから 第一世代の数自体も減ってるし」 「・・・あまり気持ちのいい話しではないな」 「確かに」 ディアッカは肩を竦めると、ライターを胸元に仕舞いながら、イザーク越しに隣を見る。 「どうした?」 いつからか、紙をめくっていた筈のキラの手が止まっていた。 「気になるヤツでもいたのかよ」 ディアッカ立ち上がると、興味ありげにキラの手元の覗き込む。 そこには二十歳になるかならないか位の黒髪の少年の写真があった。 「あぁ、ソイツな。噂のタリア艦長のトコのエースだっけか」 「シン・・・アスカ」 「そ。アカデミーの何期目かのトップも取ったらしいが、中々の問題児らしいぜ。」 ・・・。 キラの手の中で止まった一枚をイザークも見やる。 「珍しいな、お前がこんな風に目を止めるとはな」 「そう?」 此方は伺うような視線にキラは片眉を上げると、紙を束に戻し卓上で揃え、肩越しにディアッカの 手に戻す。 「眼がね、印象的だなって思ってさ」 「気に入ったんなら、引き上げても構わないぜ」 「・・・そうだね」 キラは眼鏡を外して緩く目頭を揉むと、再び掛けなおす。 そして手にしたグラスに囁くように 「一度見てみようかな」 ぽつり、伏せ目がちに呟いた。 |