何処がどう繋がっているかなんて、初めての場所で解るはずがなくて。
宛ても無く漂い付いた先は、大きなアーチ状の天井から地球<ホログラム>を望む展望室だった。
抑えられた照明。
天に浮ぶ母なる惑星。
降り注ぐ、蒼の光りは
服の朱を、その目と同じ色に染め上げる。
目を閉じて想うのは、君の事。
『じゃあ、ずっと死ぬまで、あいつらにいいように使われてればいいって云うのか!?』
蘇る、本気で怒った、顔。
あの時の君と、さっきの君が交差する。
『もう、いい。君とは考え方が違うみたいだ・・・残念だよ』
逸らされた視線。
怒りのあまり、震えるその手。
―そうだね
ぼんやりと、その爪が君の魔法の手を傷つけなければいいと、頭の隅で思いながら
僕はそう応えていた。
この答が、君の望むものでは無い事は知っている。
けれど僕はその時、
ホンの僅かな可能性に縋っていた。
気付いて。
・・・・その道の果てにある、悲しさに気付いて。
そして仕掛けた最後の賭け。
けれど僕は、
君を捕らえて離そうとしない強固な運命に
とうとう勝つ事が、できなかったのだ。
for heart ...8。
部屋の端に置かれた淡いレモン色のソファの上に、膝を立てて座っている。
大して明るい話題もないテレビを音楽代わりに
膝の上に載せたPCで進めているゲームのカードを一枚めくった。
ピロ
ダイヤのJを引き当てた所で、
画面が小さく反応を示した。
一通のメールが届いたというメッセージ。
キーを叩くと、画面の真中にメールボックスが開き、内容が浮ぶ。
『元気にしてる?
ちゃんと御飯食べてる?
一人だからって羽を伸ばし過ぎては駄目よ?』
母親・・からだった。
半年前まで、両親とヘリオポリスで一緒に住んでいたが、父親の仕事の関係で地球に降りることになって、
自分だけプラントに来た。
理由は自分がコーディネイターだから。
まだ、表立った衝突は無いものの、ナチュラルとコーディネイターの確執が、段々と引きかえせない
ものになって行くのは、テレビから伝わってくるニュースだけで、充分に感じ取れた。
本籍がオーブであるから、コーディネイターでも関係無い・・・のだが、オーブに居る人々の殆どが
ナチュラルで、これから住みやすくなるという事は絶対にある訳が無く。
まして、地球に降れば尚更のこと。
両親は、手元に置くより、プラントの方が安全であると踏んだのだろう。
それに、いざとなれば月に住んでいた時からの知り合いも居るから、ということで
手続きを踏み、単独プラントに移ることになって、今に至る。
―大丈夫だよ
カタカタとキーを叩く。
―ちゃんと一人でやってるよ。心配しないで。
定期連絡に短く返事・・・というより読んだという証明代わりの言葉を打ち、
タンとエンターキーを押す。
すると、エメラルドグリーンの鳥が画面の端から飛んできて
手紙をチョンと咥え、逆の方に飛び去って消えた。
「本当に、心配性・・・・っていうか・・・・」
もう、半年経つというのに、メールの内容は変わらない。
心配する気持ちは解るから、邪険にする気も無いのだけれど・・・もう少し信用して欲しい。
小さく息を吐くと、自作のメールソフトそして途中だったゲームの順に終了させ、
パソコンのフタを閉じる。
と、
電話の着信を知らせる音が、部屋に鳴り響いた。
電話がくるような時間帯でも心当たりも無くて、テレビに表示される時計を確認する。
PM11:30
「誰だろう。こんな時間に・・・ボリューム・ダウン」
テレビの音を小さくして、受話器を取る。
耳に宛てて、こちらが名前を言おうとして
耳に障る酷い雑音に、思わず眉を寄せた。
雨が、直接耳元に叩き付けるような音。
外は雨の時間だから、当たり前といえば当たり前だけれど。
だからといって、こんな雨の中電話をしてくるなんて・・・・。
悪戯電話だろうか、もしかして。
「・・・・もしもし?」
不審さを隠さない声で、電話の向こうに呼びかける。
しかし返るのは雑音ばかりで・・・・文句を言ってやろうと口を開いた、その時だった。
『…ラ…』
耳が、今にも消えそうな音を欠片を拾った。
その言葉の片鱗に、開きかけた唇が再び閉じられる。
ざわりと記憶を撫で返すような声。
必死に記憶を探る。
そして。
その面影を感じ取って、思わず声が厳しくなった。
「…アスラン?」
返事は返らない。
けれどそれは確信へと変わった。
久し振りに聞いたその声は、
嬉しさよりも、心をざわつかせるものだった。