for heart ...21。
「おっおわっ。なんだっ!??ってかイージス!?」
引き上げかけていた所に向けて、瞬間移動したんじゃないかというような味方機の来訪、
しかも燃料切れで色なしになっているイージスが吹っ飛んできたのだ。
ディアッカは本気で焦った声をあげた。
ついさっきまで見ていた情報の中に、ストライクは存在していなかった。
いや、こっちの援護にきたのかと思いきや見事スルーで、前線に向けてすっとんでいってしまったところまでは
確認している、というのが正確か。
初戦で功を焦り、状況も読まずに突っ込んでいった馬鹿な奴。
その時点で、脳内からストライクとそのパイロットの存在は消えた。
実際に戦場に立つのは初めての癖に、人のことまで気にかけている場合か?
いや初めてだから出来たことか、と。
『ナカマ ヲ タスケタイ』
戦の女神が戦いの行く末を決めるのなら、そんな些細な事に心を動かされたりしない。
祈って助けを待つような奴には、決して微笑まない。
力のあるもの。
生き延びる、という絶対の意志があるものにだけ心動かされる。
だからきっと、初めからイージスを連れ戻す事以外考えず向かったのだろう。このパイロットは。
ディアッカの視界を眩しい光が一閃する。
ストライク達の後を追って増殖した連合の攻撃を、ストライクのビームサーベルが凪いだのだ。
ディアッカは反射的に閉じた目を、薄く開けた。
ストライクのバーニアから漏れる光に、バスターのコックピットは蒼く染め上げている。
キラ・ヤマトが来てからアスランはおかしくなったと、ニコルが言っていた。
確かに、今までのアスランには存在しなかった種類の雰囲気を感じたのは確かだ。
しかし、それは狂ったとかそういうことではなく、アスランの本性の一つが出てきたということだと
思っていた。
あんな優等生面で生活できるほうが、自分から見ればオカシイ以外の何者でもない。
まあ何にせよ、アスランにとってキラ・ヤマトは、今まで守ってきた「アスラン・ザラ」を
忘れさせる程の存在だということには違いないだろう。
しかし、キラ・ヤマトの方は何ら変わりないように見えたから、アスランの一方的な感情だと思っていたのだが・・・。
蒼い、光。
迷うことなくただ一つを求めるような、この蒼が描いた軌跡を覚えている。
もしかしたら、キラ・ヤマトは
初めから、そのためだけに・・・・・・。
『ここは凌ぎます。早く引いてください』
キラの堅い声が、バスターのコックピット内に響いた。
この状態では、ここに留まるだけで足手まといになる。
押し付けられた荷物付きだし、何よりエネルギーも心許ない。
「OK、分かった」
ディアッカは餞別代りに最後の長距離砲を放ち、最短離脱ルートを選択する。
代わってバスターの位置についたストライクは、爆発の合間を縫って飛んでくるミサイルを、手にしたビームサーベルで
残らず宇宙の塵へと化す。
「やるねぇ」
軽い口笛の後に続くディアッカの声が思わず弾んだ。
「ま、お前のさっきの突撃も凄かったけど?」
そしてチラリと、抱えたイージスをモニタで確認する。
「面白いものは見せて貰ったよ。イザークが援護に徹する姿なんざ滅多と見られるもんじゃないし?」
返事は返らないが、ディアッカは言葉を続けた。
「けどアスランお前さ、結局何がやりたかったの?憂さ晴らしにしては周りに迷惑掛けすぎてんじゃない?
さすがのニコルも怒ってるぜ。覚悟しとけよ」
ひとつ。
またひとつ。
索敵レーダーから10数単位で光は消えていく。
瞬く間に小さくなっていく白い機体。
やがてモニタの端からもその姿は消えた。