for heart ...2。
「動かすって…あれをですか?」
信じられないといったニコルの呟きの横で、アスランはその真偽を疑うかのように、目を細める。
イザークは悪い冗談だと言わんばかりの表情で、ディアッカを見下ろした。
GAT-X105。
ストライクガンダム。
自分達が奪う事を命じられた機体で、唯一起動させてから持ち出す事ができなかった、機体の名。
機体性能とシステムの兼ね合いが複雑すぎて、奪取したその場では手におえず、他の機体で抱え
帰還せざるえなかったのだ。
無論、時間に迫られていたし、余裕がなかったということもあったが、 起動すらままならなかったのは、
少なからず屈辱的だった。
・・・ナチュラルの作ったものに、自分達の能力が追い付かなかったのだから。
帰艦後、艦においてのシステムの専門家に預けられる事になったが、
『ストライクは戦場では使えないと?』
『無理ですね』
出された回答は早かった。
白い研究着を着た技術者はきっぱりと言い切ると、クルーゼとパイロット達に、既に置かれた報告書を
見るよう促した。
『ストライクは、ブリッツ・バスター・デュエル三機の機能を兼ね備えた万能機・・・と言えば簡単に聞えますが、
それらの性能をギリギリまで引上げ問題無く互換しあうシステムでなければ、本来のストライクとしての
価値が無いばかりでなく、動く事すらできない厄介なものなんです。それを、一機でも動かしかねるOS、
貴方達が一から作り直さなければならないような・・・です、それと殆ど変わらない物で動かそうとしているんですから
動く筈が無いんです、書き換え以前の問題です』
『三機分の機能を一機に集約してみたというだけで、それがどうやったら動くかとかいう事はまったく考えて
なかったってことですか』
『はい。』
技術者は、言葉を挟んだニコルに頷くと、苦々しげに言葉を吐いたのだった。
『・・・・あれは、動く事を前提として作られたものではないと、思われます』
「・・・本国に持ち帰って、チームを組んだ上でシステム開発から始めるんじゃなかったのか?」
艦に刻まれた石像の如く、ヴェサリウスで眠りにつくストライクを浮べながら、
アスランは、右目に落ちてきた髪をかきあげ、ディアッカに視線を送った。
オレもそう聞いてたさ。 ディアッカはアスランから取り上げた資料を机に放ると、指を組み、顎を載せた。
「ところが隊長が、最近配属されたばかりの一般兵に、ストライクを触らせてみたんだってさ」
「・・・・・一般兵・・・の方なんですか?システム担当者でも、MSパイロットでもない?」
「みたいだな。ま、隊長が何考えてんのか解らないのは、何時もの事だけどさ」
「そうですね・・・。それで?」
「ああ、そしたらその一般兵「15分で形にできる」って言い切ったらしいぜ」
「馬鹿か、そいつは」
壁に凭れかかっていたイザークが、心底嘲るような顔で鼻をならした。
「あんなもの、入ったばかりの一般兵が一人で、しかも15分足らずで何とかできる代物か」
ディアッカが「同感」とおどけたように肩を竦める。
「嘘吐くなら、もっとマシなのにしろってね。でも、ま、うまくいけば間違い無く俺達の仲間入りだし?
ソイツもソレ狙ってんじゃないの」
「でも…それにしては…」
ニコルが唇に手を宛て、腑に落ちないと言う風に考え込む。
「戦いで手柄を立てるよりも、難しい方法を取ったものですよね…」
「余程自信があるんだろ、それか只の馬鹿か・・・・ん?」
ディアッカが入口の方を振返った。
アスランも視線だけを動かして、同じ方を見る。
「騒がしいな」
イザークが眉を寄せた。
扉の向こうから、いくつもの足音が、途切れる事なく響いてくるのだ。
「・・・何でしょう」
扉に近いニコルが立ちあがり、扉を開ける。
すると、目の前を何人かの艦員がブリッジの方へと走っていった。
ニコルは、さらに続く兵の一人を捕まえる。
「どうかしたんですか?警報は鳴っていないようですけど」
「あ、緊急事体とかじゃありません。ストライクが起動が成功したっていうので見に行くんですよ」
行かれないんですか?という問いに、ニコルは一瞬言葉が遅れた。
「は!?マジで起動させた訳??」
ディアッカが体重をかけて椅子毎体を反らし、その兵を見る。
「そのようです。今から宇宙に出るみたいですよ」
「え?起動させただけじゃなくて・・・動かせたんですか!?」
「はい、それでその姿を、特別にブリッジでみられるんで、皆急いでるんですよ」
では、早々と立ち去っていく艦員を目で追いながら、ディアッカはポカンとした表情を、ゆっくりと笑みへと
変化させる。
「面白い事になってきたじゃないか?」
ニヤリとしながら、残る三人に視線を投げて寄越した。
「どうする?オレは見に行くけど、ミーティングなんかする気あんの?」
ガタン。
今まで話にあまり加わる事の無かったアスランが席を立った。
「何だ、貴様も行くのか」
野次馬がといいたげな目が、アスランを一瞥する。
それに構わず、アスランはディアッカの前から資料を取り上げると、歩き出した。
「本当に動いているのなら、見てみたい」
「確かに、興味はありますよね。一緒に戦う事になる機体ですし。イザークはどうします?」
「ああ、勿論行くさ」
イザークは、しなやかな動きで壁から背中を離す。
「・・・その動かしたっていう奴の顔も、拝んでみたいしね」