for heart ...19。
「くそっ、キリがない」
そろそろデュエルの燃料インジケータがイエローラインを割ろうとしていた。
しかし、辛うじて自分が抑えている現状を放り出す訳にも行かない。
バスターも同じ状況の筈だ。
先行し過ぎの馬鹿、そして味方機への援護、数、残り時間。
ビーッ
減らない負荷に顔をしかめているのを嘲笑うかのように、敵接近の警告音がコックピット内に
反響する。
反応が遅れた。
「ちぃっ」
デュエルは即座にビームサーベルを抜き、一機の胴を貫く事に成功する。
が、アラートは消えない。
まだ残りがミサイルと共に迫ってきているのだ。
ランチャーを構えようとするが照準まで間に合わない。
イーゲルシュテルンでミサイルを落すので精一杯、コレで本体の撃墜は無理だ。
「くそっ」
MAとの距離が詰る。
と。
迫る敵の背後にある闇が不意に揺らいだ。
その陽炎のような揺らぎの中から、二対のピアサーロックが打ち出される。
何の前触れも無く、背後から突如襲われることになったMAは、呆気なく爆風に散った。
そして闇は、デュエルと似て非なる機体の形へと変化する。
『イザーク一体どうなってるんですか』
ニコルの駆るブリッツガンダムだった。
ミラージュコロイドを解いた機体は、デュエルと背を合わせる位置につく。
『貴方じゃなくてアスランが突っ込むなんて』
・・・・・・素直に助かったと礼を言おうとしたのだが
「喧嘩を売っているのか」
イザークはビームライフルを構えなおしながら、怒鳴りたいのを辛うじて抑えつつも
低くなる声で言い返す。
映像に出たニコルは肩を竦めつつ、さらりと流した。
『そんな無駄なことしませんよ。まあ、最近の行動から見ればやっちゃったかって感じですが』
「...冷静だな」
『怒ってるだけです』
確かに。
普段のニコルならば、此方の神経をさかなでるような物言いはしない…それに・・・
イザークはブリッツの様子を一瞥する。
できるだけ無駄な攻撃はしない・・・急所を外すような戦い方をする性質だが、今のブリッツを見るに
敵は容赦なくレーザーライフルの的になっている。
怒っているというよりは、あのニコルを以ってしても、
(なりふり構ってはいられないというのが正しいか)
まあいい、イザークは息をつく。
入れ替れる人間がようやく来たのだ。
揉める時間も惜しい・・・が。
「あの新入りはどうした。もうやられたのか」
『あぁ、キラさんですか』
ニコルはちらりと背後を振りかえる。
バスターのいる方角だった。
『何発かこっちに向かってきたでしょう。あの長距離砲の光は彼ですよ。かなりの腕ですね。
一発で結構な数を減らしてくれていますよ。こっちが指示するまでもなく何をすべきか
わかってみえるようでしたから、任せて此方に来ました...けど問題は』
レーザーライフルを放ちながら、ニコルは小さく溜息をつく。
『何とか追いつければと思いましたが、やはり援護が精一杯のところですね。ミラージュコロイドもありますし
無理すればイージスまでたどり着けなくもないですが、道連れでこっちまで落とされたら本末転倒も
いいとこですから』
ニコルは戦い好きではない。
それが腰抜けと評する所以・・・だが、馬鹿ではない。
いや、こういう時の状況判断に於いてはかなり信用をしていい。
スイッチが切り替わるというか、一度腹をくくり戦場に立てばいつもの甘い私情を廃し、
冷静に大局を見る事ができるのだ。
慕っているアスランが関わっているからどうかとは思ったが心配ないようだ。
「・・・一度戻る」
イザークは得た戦闘データをブリッツに送る為にキーボードを取り出した。
操作しながらイザークは続ける。
「ヤツが相当数減らしてはいる。それでも俺が戻る間に9割方終わっているだろうがな」
『・・・』
ニコルは否定しなかった。
9割の確率は戦いが終結している確立ではない。
赤い機体を失う確率だ。
しかし、このままでは身動きすら取れない。
「なるべく早く戻る。その間此処を頼む。ついでにあの馬鹿の援護してやれ。」
『わかりました。さすがの僕も帰ったらちょっと言いたいことがあるんで。…持たせてみせますよ』
「あぁ」
ブリッツとデュエルそれぞれのモニタに転送完了の文字が瞬く。
同じくして一つになっていた機影は二つに分かれ飛び立った。