for heart ...17。
暗い靄がずっとまとわりついている。
足掻いても足掻いても光が見えない。
アイツが来て、掴み掛けたかに思えた光は更に遠くなった気がする。
だんだんと黒い影は濃さと・・・心地良さを増していくのだ。
たおやかな手が、何も見なくていいのだと目隠しをするのに似て。
そこに居てはいけないと叫んでいた声も、今は遠い。
わかっている。
けど、出口がみえない。
だから足掻く。
どれだけ倒せば心は晴れる?
迷いはなくなる?
命が光になって散りゆく果てに、答えはあるのだろうか?
翔ける朱の風は
恐ろしいほどの勢いで敵を凪いでいた。
目まぐるしくその形態を変え、瞬時に"戦い場"に適応していく。
スキュラの熱線はアーマー10数機を一度に熔かし、迫る敵はMS体に形を取りライフルで墜とす。
一騎当千
その姿はまさに鬼人の如く。
イージスの活躍にブリッジは湧き、周囲で戦う者は更なる尊敬の念を抱いて、自らも向かって行った。
数での劣勢を忘れさせるほどに、イージスは・・・アスラン・ザラは強かったのだ。
だが、イザークはその違和感に眉を潜めていた。
「おい。アスラン!」
賞賛などおくっている場合ではない。
「出すぎだ!おい!!聞えているのか!!!」
わかっているのか?
明らかにおかしいだろう、この状況は!
隙を突いて飛ばした無線ワイヤーはアスランからの返事を伝えることなく、瞬く間に限界まで張りつめ、切れた。
イザークはLOSTの文字に、握り締めたグローブを叩きつける。
MA体に変形したイージスのスピード、そしてヤツの腕に敵うものはそうはいない。
確実に数も減っているとは思う。
だがこれだけの数。
ヤツがどんなに強かろうとも、一度で片付けられる量では到底ない。
現時点で中心部に突撃するなど自殺行為以外のなにものでもないのだ。
しかも高エネルギー砲も幾度と無く発射している。
自分達の機体とは基本形態が違うから多少の誤差はあるだろうが、エネルギーも確実に減っているはずだ。
いや、何より・・・計略無しに敵の真っ只中に突っ込んでいくような方法をヤツは選んだりしない。
この自分がフォローしなければならないと感じるような、危うい橋を渡る戦い方など・・・決して。
<<あれ、ヤバイじゃないの>>
イザークの舌打と重なるように、タタタッと画面にバスターからの通信が飛んできた。
だが止めるだけの余力まであるはずが無いのは一目瞭然、お互い様で。
<わかっているなら、あの馬鹿のフォローに回れ>
殴るように通信を打ち込む。
アイツの生死はともかくとしてもだ、イージスを破壊されるわけはいかない。
「っ!帰ったら覚えてろ!!」
此方の思索もお構いなしに突っ込んでくる敵にランチャーを叩き込みながら、イザークは背を守るように反転した。
「思っていたより、デブリが多い・・・」
向かってきた連合のMAの残骸を避けながら、キラはモニタに目を落した。
現状、数では負けていても戦力で勝るザフトに勝機がなくもない。
いくら最新型の戦艦とはいえど、この激戦の中無理矢理下ろすことはできないだろうから、アレを落すか・・・諦めさせれば
此方の勝ち、この戦いは終る。
だが、互いに更なる援軍が付き、全面衝突に近くなってくるのも時間の問題。
戦局が長引けば長引くほどに此方の勝率は下がり、連合側が有利となる。
"前線"は、予想していたよりも母艦から離れているようだった。
それは、ザフトが圧している、ということになるのだろうが・・・。
「え?・・・まさか」
キラは再び見止めた一つの味方機の在り処に、眉を顰める。
「イージスが先行しすぎてる」
静まり返ったコックピットの中に、キラの掠れた声が低く響いた。