HOLY BLOOD ――楽園



捨てられた荷物のように、どっさりと地面に落ちる。

体中が裂かれるような痛みは、塀の上から受身も取らずに落ちた所為か
あの赤い光に灼かれた所為か。


のた打ち回ることすらも出来ないその痛みに、ディアッカは歯を食いしばり体をかがめた。
こんな事をしていても、痛みが消えないことは解っていたけれど、
助けを呼ぼうにも、喉で声が引っ掛かってできなかった。


(このまま死んじゃうわけ?おれって…)


走馬灯のように駆け巡る思い出は、まだみえなかったけど、
上映開始も時間の問題のような気がする。
いっそ気を失えれば楽だろうが、・・・ツメが甘いと言われる性格もこんなところでまで出なくてもいいのに。


「父が」入るなといった場所。
見た目に危険でなかったのなら、別の危険があると、ちょっと考えれば解る事だったのに。

・・・フェブラリウス市の代表の息子が、自分ちの防犯システムに引っ掛かって丸焼きなんて・・・
笑えないだろ、これは。



(カッコわり…)




痛いだけじゃない、自分の馬鹿さ加減に情けなって目の端に滲んできた涙も
痛みに拍車をかける有様…ディアッカは屈めた体を更に丸くして目を閉じる。



そしてどれくらい、そうしていただろうか。




サク。



ディアッカは痛みに閉じていた目を薄っすらと開いた。


サクサク。


芝生を踏む、音?
だんだん近づいてくる。


(やっと、助けが…)


涙と嫌な汗で滲む目をこじ開けて、必死の思いで見上げた先に映ったのは、



ふわりと舞い、視界を支配する純白の手術着。
太陽の下にあって、その中でもなお白く光るもの。


ヒカリの帳から、声がする。


「珍しいね。こんなとこに人が落ちてるなんて」




大人の声じゃない…子供?
自分が欲していた警備員の姿ではなかった。


誰だ?


緩やかな風に、茶色い髪が揺れて。
見下ろす透明な紫と目が合う。



…一瞬。
痛みが消えた。
その澄んだ目に、痛みがすうっと引いたような気がした。

ぽかんと、ただ瞬きするしか出来ない。


自分は、きっと酷い状態だろう。
黒こげ・・・まではいっていないと思うけど、それに近い状態だったと思う。

けれど目の前に現れた少年は、眉を潜めることもせずに平然とこっちに近づいてきていた。

裸足が、芝生を踏んで。
二本の細い脚が、間近にくる。

そしてひょこん、と倒れるディアッカの顔の傍にしゃがみこんだ。


「けが、してるんだ?」


あどけないトーンの中にも、芯がある声。


「こんなになって、何かさがしてたの?」


ちょっとだけ呆れたみたいに、首を傾げたソイツは、
しゃがんだ状態で、ディアッカの髪に手をのばしてきた。

ゆるいウエーブのかかった金髪を優しく撫でながら、一瞬の目の動きでこっちの状態を把握したみたいだった。
ソイツは、撫でていた手を止めて、焼き焦げたパーカーの残る腕を持ち上げる。


「った!!!」


思わず声を上げたディアッカに、ソイツは「ごめんね」と答えつつ、腕が開放されることはない。


「うまく、庇ったんだね。だからここだけがひどくて済んだんだよ」


そうして見せられた傷口は・・・。
何か、ピンク色をしていて…とてもじゃない・・・自分のものでも見ていたくないなもので。
自分の腕なのに、顔を背けた。

そして、やめろと、手を振りほどこうと指に力を込めた時だった。


ソイツは軽く目を伏せると
その傷口に、躊躇いも無く、唇を落とす。


皮膚の組織がむき出しの其処に。



その唇の有得ない程の冷たさに、ディアッカは痛みとは別のところで顔を顰めた。