照明を落とした筈の部屋に、一筋の明かりが射し込んだ。
「…ん?」
イザークは体を起こし、まだ覚醒しきらない目をそちらに向ける。
しかし、閉じてしまった自動扉は何者かの入室を許した後、部屋を暗闇に戻していた。
靴音だけが、こちらへと近づいてくる。
そして。
ぼす。という音と共に直ぐ横で何かが倒れ込み、その振動がベット上にある自分の体を揺らした。
「……ぼす?」
イザークは首を傾げながらも手を伸ばし、枕元の明かりを付ける。
眩しさに反射的に目を覆うが、それも一瞬の事ですぐに視力は戻り始める。
イザークは視線を音源に移した。
・・・・・・。
「あ゛ぁ!?」
思いっきり、これでもかというほどにイザークの顔が顰んだ。
端正な目許に、刻銘なシワが刻まれる。
見慣れたくもない、紺色の髪が真横に倒れ込んでいるのだ。
「アスラン!?」
閉じられた鋼鉄の扉を越えて、廊下まで響くのではないかと言うほどに張り上げた声にも、反応がない。
嫌々ながらも覗きこむと、いつもの忌々しい視線は瞼に沈み・・・さらに寝息・・・完全に眠り込んでしまって
いるのだ。
「おいっ貴様、起きないかっ」
肩を揺らすが、その睫がぴくりとも動くことはない。
「何なんだ、一体っっ」
さらに激しく体を揺さぶってみるが、反応が無い。
イザークは起き抜けの激しい運動に肩で息をしながら、突然の事に半ば呆然とアスランを
見下ろすしかなかった・・・、と。
しゅん。
再び、扉の開く音が部屋に響いた。
そろりとイザークの目線がそちらに移る。
通路の明かりに浮びあがる人影。
・・・今度はキラだ。
「何か、用かキラ?」
もしかして、この馬鹿を回収しにきてくれたのか、イザークはアスランの肩を掴んだままキラの返事を待つ。
が・・・いつまで経っても答えは無い。
嫌な予感によくよく見れば、キラの目は一応開いているものの、視点がいまいち定まっていない。
ゆらり
まるで引き寄せられるように、キラが此方に歩いてくる。
そして、アスランと反対側に倒れ込み…
さらりとベットに栗色の髪が広がる。
うつ伏せ気味の体勢に髪は頬に掛かり、紫の瞳は長い睫の奥に、沈んでしまった。
「……何だ。この状況は…」
一気に増えた人口に、イザークはこめかみを押さえながら唸るように呟いた。
各人の部屋は、自分を挟んで両隣。
部屋を間違えたのだろう、ということは予測できる、が。
二人同時に、しかもしっかりと制服を着用した状態とはどういうことだ。
記憶を辿るイザークの表情が、暫くして合点のいったものに変わった。
「ああ、二人とも夜勤シフトか…」
Gのパイロットとはいえ、一介の戦闘員に変わりはない。
昨日出撃があった後、そのままシフトに入って徹夜…という訳か。
キラもアスランも、ザフトの双璧と呼ばれ・・・軍上層部にも但し書きは付くものの、全面的な信頼を
得ている立場だ。
それが、揃いも揃って自分を挟み、向かい合って寝息を立てている。
その表情は、自分ですら 忘れかけていた、年相応の「少年」の姿。
アスランはともかく、キラもこう見えて中々無防備な姿を見せようとしない。
激しい戦闘の後などに、ブレーカーが落ちたように眠ってしまう時以外は、心に触れようとしても
最後の一線でスルリと逃げる。
キラもアスランも、常に薄いベールで自らを覆い、此方との距離を保とうとしているのだ・・・。
・・・そんな二人だから、このシーンを見る奴が見たら、とーてーも貴重なものだろう。
自分が見ても、なんっにも嬉しいものではないのだが。
「クソ!あ゛ーっっ!!!何でオレがこんな事をっっ」
イザークはムズッと自分のブランケットを掴むと、それぞれ両脇の二人に掛かるよう投げ付けた。
そして自分も元通りに沈むと、ブランケットを頭から被る。
…二人と自分、紅が揃いもそろって川の字状態だとか、
真横に二人の顔があるとか…考えそうになる思考を無理矢理ねじ伏せ、
イザークは強引に目を閉じた。