Holy Blood-ZERO4




見上げた蒼の機体…今はその色を落としていたが…の方は、損傷もあまり見られず、
パイロットも自力でコックピットから降りてくるところだった。
地面に降りる手前、手を貸そうとした同僚の手を払い、苛立たしげな手付きでヘルメットを外す。

何を言っているのかまでは聞えないが、偶に耳に届いてくる言葉の端々から、何かに腹を立てているのは解った。

宥め役の同じ紅を着る同僚に向けて、パイロットは手に持っていたヘルメットを投げつけるように放り、
構わずズカズカと先に歩いていく。
投げられた金髪の髪の少年は、顔にヒットするスレスレの所で受け止め、振り返る気配の無い背中に
諦めの入ったため息を落す。

そして頭を掻きながらついと動かした目に、キラの姿が映った。


 「「あ」」

向こうの口がそう動いた。
殆ど同時に、キラの口からも声が漏れ
る。

金髪の少年は先をいくパイロットに向けて何やら言葉を投げると、キラの許に歩いてくる。
そして傍までくると、不審そうに此方を睨んでいる銀髪のパイロットに背を向けるようにして、キラの肩を引き寄せた。

「どうしたんだよキラ、こんなトコで。誰かにくっついて来たのか?」
「違うよ。今日からここに配属になったんだ」
「嘘、マジで?」

まじで。
キラは少年を仰ぎ、口調を真似て返す。

「それを言うなら君の方こそ、髪上げてるから一瞬誰か解らなかった…。名前を聞いた時にはまさかと思ったけど、
本当にいたんだね」

「まぁな。評議会議員のお年頃の子供が、強硬派だけじゃなく穏健派まで総出でザフトに入るっていうんだからサ。
中立派の息子が来ないわけにはいかないし、な?」

そう言って肩を竦め、口角を上げ此方を見下ろす姿には、不敵な自信が漂い、金髪に褐色の肌は隙を見せない獣を思わせる。
彼の名はディアッカ・エルスマン。
施設があったフェブラリウス市の代表を務める、タッド・エルスマンの子息である彼は、幼い頃より<移植者>を知る立場にあった。
そして年齢も近かった彼とは、何度か顔を合わせる…だけではなく、よく共に遊んだ昔馴染みだった。

ディアッカは、同じコーディネイター同士であるのに、特別な力を持っている事だけで施設に閉じ込め、人のために命を捨てろという
<移植者>に対するやり方を快く思っていなかった。

自分自身が、縛られる事を嫌う性格だから、尚更なのだろう。
自分やラスティよりも、その理不尽さに憤っていたような気がする。

が、だからといって彼自身は成人もしておらず、発言すらも認められていなかったから、どうすることもできなくて、
せめてもの抵抗と称して、自分の名前を最大限に利用し、施設に堂々と出入りしていたものだ。

「…にしてもさぁ、親父権力使いまくりじゃないの」

ディアッカは苦く言葉を吐くと、その大人びた横顔をかたどる眉間に力を籠める。

「ラスの次はキラ?zeroばかりありえないだろ、普通」
「そうかな」

首を僅かに傾けた、その紫の瞳が柔らかいものに変わる。

「ディアッカ達は未来≠セから。プラントの行く末担う大切な人達だから 理解できないことじゃない。それに子の親ならば、
選べる選択肢を敢えて捨てたりしないと思うよ」

「それがお前達の命を奪うことでも…か」

皮肉げな言葉とは裏腹の、優しい眼差しが同じ色の瞳を映す。


「…・・・訊かないのな」
「誰のために、ラスティが命を失ったかってこと?」
「……・・・ああ」

「知りたくないって言ったら嘘になる、よね」

さっきも喉まで出掛かったんだ。
キラは言葉を選ぶように目を細める。

「ラスティが心から助けたいって思えた人ならいいけど…でも知った所で、何でもない顔して笑っていられるほど
強く出来てないし。任務に支障があると判断されたら 記憶操作掛かるだろ?…それでラスティの記憶まで奪われたら、
そっちの方が嫌だから」

ディアッカは訥々と言葉を並べていくキラを複雑な表情で見下ろしていたが、その髪の上に手を載せると、
甲に唇を宛て、肩で息を吐いた。


「キラってさ、なんでそんなに健気にできてんの?」
「健気?」

怪訝そうに聞き返すキラに、ディアッカは頭の上で片眉を上げる。

「そ。オレなら逃げ出すね。いくら国家の至宝だなんだって言われても、結局人の為に死ねっていわれてるようなもんじゃないの、
zeroは。自分の命は自分だけのモノだし、縛られてやる必要なんて何処にもないんじゃねぇの?」


「僕はね、ディアッカ。別に怖いとかないんだよ」

キラは淡く笑みを浮かべる。

「僕はもう出会えたから。命を引き換えにしても生きて欲しいって思える人に。そして願いは叶えられたんだ。
誰か覚えていなくても、その人は今も何処かで…僕の命を抱いて生きている。その誇りがあるから
「僕は」大丈夫なんだ」


キラは瞬きと共に、伏せていた睫を上げた。



 「ただ、ラスティは死なせたくなかった…・・・それだけだよ」



ディアッカは、涙も見せず静かに言い切ったキラの頭を自分の胸元に引き寄せると、
自分の無力さに顔を歪め、飴色の髪に額を埋めた。