かめさんの詩集
第九弾
方舟に乗り損なった少年ら
みんなの観ているまえで
モナ・リザに
アカン・ベーをして
ルーヴル美術館を
立ち去っていった
少年
の後姿は
妙に美しいものだった
忘れ物をして
先生には叱られ
友達にわらいに曝されていた
少年
自身大きな忘れ物であることに
気付かないまま
校門の脇に立つ
二宮尊徳さんの像に
知らず識らず
親しみを感じるようになっていった
初めて
大きな辞書
を手にして
希望 ー 前にした事を後になって悔いること
後悔 ー ある事を成就させようとねがい望むこと
と読み違えてしまった
少年
先祖傅来の家宝 ー 玉手箱
の蓋を
こっそりと
開けようと
何度も何度も
試みているが
まだ開かない
とある
古刹の
結界を
跨ぎ立ち
落蝉の
風葬を
見守る
少年
の左右の足に
染み込んでくる
透き徹った
温もりが
全身を包む
少年の日のコップのなかに
五月の風がうつつてゐた
北園克衛