かめさんの詩集
第八弾
千切れ叢
7
目を閉じて
よく見る
耳を塞いで
よく聞く
口を噤む
巨石は
無限の
時空に
沈黙を
響かす
8
何気なく
これからの古墳の一つを覗いてみると
あの「落穂拾い」の
老農婦が
にこにこして 拾った
落穂を毟り取っていた
傍で 男の子が
その果実を
一粒一粒
カラバコスの
ゾウガメの大きな口に似た
異界の空 目掛けて
全力で投げていた
古墳の中は
あの「カラバコス・トマト」の
懐かしい膨よかな味に
満ち溢れていた
9
蟻さんたちを
踏み躙ったことはありません
蝶さんトンボさんたちを
磔にしたことはありません
只管
働き続けてきて
こんなに
貧しくなりました
気が付くと
西行さんや
芭蕉さんの
跡をゆっくりと
追掛けておりました
道に迷うと
道端の溝の
泥に
枯れるのを忘れて
咲く冬の蒲公英
一輪を手折らず
道案内にして -
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ぼろぼろになって
電線に引っ懸かったままの
奴凧
を指差して
あれが おまえだ といった
悪戯坊主の友がいた
咄嗟に
母の胎内で
希望を喰い散らかし
理想は隅々まで
後悔で縫い返えしていた
ぼくの記憶を消し去った
黄泉に
鳴く
姿なき
冬の
蟋蟀に
合掌して。
春の日や
あの世この世と
馬車を駆り
中村苑子