G―con覚書
 
注意事項:この覚書は私の視点で、記憶に頼って切り貼りしたものです。言うまでもないことですが
資料・史料としての価値はございません。なさる方はいないと思いますが、使用された場合の責任は負い
かねます。軽いエッセイとしてお楽しみいただければ幸いです。
 
 まあだいたい参加する実感は交通機関の準備を始めるあたりから湧いてくるもので、今回もやっと二、
三日前からテンションがあがってきた。多少事務手続きにトラブルがあったけれども、こちらの勘違いで
もあるので気にしない。
 JR名古屋駅のホームですでにそれらしい集団を見かける。「何となく」わかってしまうあたりがあれ
でなに。プログレスレポートに掲載されていた列車なので重なったのだろう。
 岐阜駅に到着し、改札を出るとSF大会参加者向けの案内ブースがある。参加者が皆足を止めて苦笑を
浮かべていた。なんでも観光協会を巻き込んだらしい。バスターミナルへの道筋にも観光協会の方らしい
人達がバス乗り場の案内をしていた。正直な話SF大会参加者はそうお金をおとさないと思うのだが。
 乗客はほとんど参加者らしかった。時刊新聞社の法被を着た方がいたり、あの作品は解釈が、という会
話が漏れ聞こえてきたりすると大会に向かっている実感が湧いてくる。
 長良川国際会議場に到着する。受付をすませて当日配布物の入った紙袋を受け取る。ガイドブックや
会場見取り図の載った団扇が入っていた。どうせならタイムテーブルも掲載して欲しかったが、直前まで
決定できなかったらしく、プログラムブックにもなく追加プリントの形で配布されていたので無理もない。
 会場は前方後円墳のような形だった。階段やエスカレーターが非常に複雑に構成されていて、見えてい
るのにたどり着けない場合もある。実用面を重視していただきたい。そしてコインロッカーが少ないのに
は困った。クロークは受付として利用されていた。
 ロビーでプログラムブックを読んだりしているうちにオープニングセレモニー開始時間が近づいてきた
のでホールに入る。舞台の直ぐ前には座席がなかったのでオーケストラなどのためにあるのだろうと解釈
し、適当な席に落ち着いた。直前になる。
 「がこっ」と音がした。前方からだった。ぎょっとして見ると座席がせりあがってくる。どうやら演出
であったらしい。笑い声があがり、参加者が前方に移動してきた。
 オープニングは実行委員長の挨拶から始まった。何か仕掛けがあるのかと思ったが、非常に緊張してい
るらしい(無理もない)様子がわかる、じつに朴訥な挨拶だった。
 その後、完成させられなかったオープニングフィルムが流された。まああのガイナックスでさえ間に合
わせられなかったのだからってそういえばどうなったのか。線画のみではあったもののかわいらしい女の
子の絵柄だった。
 続いて柴野拓美賞の発表。受賞結果はあちらこちらで発表されていると思うので省く。夫婦で活動なさ
っているにもかかわらず、男性の方にのみ賞が贈られ、受賞出来なかった女性に贈られた。お人柄のしのばれることである。
 続いて星雲賞。今回の副賞は岐阜特産の提灯であった。作品名と部門、作者名が書かれている。海外部
門は宅配便で送るらしいがもらっても…。受賞者の方々のコメントで印象的だったものを少し。
 ノンフィクション部門受賞の「宇宙へのパスポート2」作者、笹本祐一氏が「これは現実であってSF
ではない」と叫んでおられた。まあノンフィクション部門ですから。
 自由部門の「王立科学博物館シリーズ」では「二日後までにアイデアを出さないと発売に間に合わない」
という恐ろしいコメントだった。2001年大会のモノリス大明神希望。
 日本長編部門の「第六大陸」小川一水氏は記念写真を撮影。確かに滅多にあることではないかもしれな
いが…。
 投票者への賞は航空宇宙博物館のアストロノートとH2ロケットバルーン。いいなー。
 
 ここからは各企画が始まる。最初に「菅浩江『永遠の森 博物館惑星』の世界を語る」に足を運んだ。
主に執筆技法に注目した。この作品は短編シリーズである。最初シリーズ化できるかどうか(商業上の問
題で)わからなかったそうだ。だが最初の作品から最後のものに繋がる伏線が仕込まれていた。構成の妙
といったところだろうか。
 「博物館惑星」と言う設定上、現代の実在する芸術家やその作品が出てきてもよさそうなものである。
だが登場することはない。その理由として、実在する作家を出すと現代と作品上の世界が繋がってしまい
書きにくくなるということがあげられた。確かに現実との関わりを持たせると嘘が付けなくなる。「社会
科は苦手」とおっしゃっていた。今後の社会情勢の変化にも対応せねばならなくなるので、そうした方が
賢いのだろう。冷戦が続く設定にしておられた何人の作家が泣いていることか…。
 SFにつきものなのは裏付け調査である。だいたい使用するのは百科事典と講談社のブルーバックスだ
そうだ。専門書に手を出すと全部詰め込んでしまうが、この程度だとコンパクトに収まってよいらしい。
み、耳が…。物語の流れ上必要のないデータは読んでいても面白くないだろう。
 アジアの舞踊を扱っている作品があった。日舞と同じように重心を下におくものである。「自分の得意
なものにかたよりがちで」と話しておられたが、他の作品に出てくる和服などと同様、それが独自性にな
っているのだからよいと思う。
 この短編集における機械的な仕掛けとして、脳に直結する検索システムがある。これが普及している社
会というのは面白いと思ったのだが、脳外科手術が縛りになっていて普及はしないとのこと。ち。
 
 「SFとロマンスについて語る部屋」東茅子さんが主に語る、洋書で読むSFの部屋である。この方の
語りは独特なので毎回楽しみにしている。
 最近海外ではロマンス小説にSFやファンタジイの技法が取り入れられている、ということをテーマに
話は進んでいく。あのハーレクインが、SFとファンタジイのレーベルをつくったそうだ。書いている作
家は「ヴァルデマール年代記」のマーセデス・ラッキー、サラ・ゼッテルなどごく普通にSF・ファンタ
ジイ作家としての評価が高い人物だ。ハーレクインの前例のように、小説内容にきつい縛りはない。童話
のもじり、アーサー王もの、タイムトラベルものといろいろある。だが、ジェンダーの入れ替えなどの実
験的要素はないらしい。エイリアンにしてもなぜか地球人類における男性・女性の区別がなされているそ
うだ。普通のロマンスにSFやファンタジイの味付けをしたもの、らしい。ロマンスものの新しい切り口
とみるかSFやファンタジイの一般化とみるべきか。
 面白ければなんでもいいとは思うけれどね(禁句)。個人的に笑えたのはアーサー王ものである。出産
時に母親の生命を危ぶんだ父親が魔物と契約をしたため危険にさらされた女性をさっそうと助けに来た騎
士が円卓の騎士サー・ガウェイン。そこから「サー・ガウェインと緑の騎士」をベースに、身分違いのロ
マンスが繰り広げられる…そうである。前列が空席であったのをよいことに椅子の背をばしばし叩いて笑
い転げておりました。
 このあとの企画にはとくに行きたいと思うものもなかったのでディーラーズルームで買い物。神林長平
の本があったので買う。一般書店ではまず並ばない出版社だった。あとは以前から買っていたシリーズ同
人誌が完結。おめでとうございます。企画での質疑応答とはことなる気楽な会話が楽しい。
 今年も集合するはずだった「マトリックス」のスミスズは都合により一人しか来なかったそうだ。なさ
っていた方には悪いがスミスズは集団であってこそ。パフォーマンスに丁度いい場所もあっただけに残念
だ。来年に期待する。
 ひととおり買い物を済ませて宿に戻る。ひともめあったが割愛しておやすみなさい。
 
 翌朝は少し遅れて「クイズ!SFヘキサゴン」に顔を出した。のんびり気楽に楽しめるクイズ企画。
正解が「ITと呼ばれた子」のところを「SFと呼ばれた子」など、恣意的なものもあろうが笑える回答
が続出していた。のんびりと肩肘張らずに、心の底から笑えるのも大会ならでは。某香水のブラン
ド名がわからず、「それではなんでもいいから女性のブランド名を三つ言え」という一幕があったが、わ
たしもあやしいものだ。いやその。
 
 そして昼食を食べそこねたまま「ライトでハードな物語〜野尻抱介・林譲治のの創作の裏側」を聞きに
行く。この建物はたいそう構造がわかりにくい。
 ハードSFのお二人だが、物語にはキャラクターも必要。そしてその構成は商品としての観点にも左右
されるという話があった。たしかに思考の筋道がまったく違う存在の語る物語はとても読みにくく、商売
としては成立しないだろう。また書きづらい。しかし一度ぐらい見てみたい。同じくキャラクターの話に
なるが、悪役には悪役の論理があるという話もあった。いちばん残虐なものは自然選択であるという話題
も興味深い。
 ハードSFの真骨頂、科学設定の話ももちろん出た。天文雑誌からヒントを得るようなことは意外にま
れだそうだ。ハードSFがシミュレーションであるかどうかには疑問符がつくらしい。星系の図を書くこ
ともあるが、これは縮尺を自分の近くの距離に当てはめると浮かびやすいらしい。また、軌道計算等は理
解するときに必要に応じて作成するそうだ。自分に必要な精度を把握し、正しさよりも妥当さ、つまり小
説上怒って欲しい現象のために必要な条件を導くためにおこなうらしい。
 ハードSFといえども小説。当たり前のことではあるが忘れがちだった。
 個人的な話だが、「女性の描写が類型的だと言われますが」という言葉に冷や汗。
 
 最後は「SFへの道」小松左京氏の企画。私ごときが何を言うこともないのですが。
 ちょうど先日読んだ「復活の日」の話題が出た。私は人類滅亡が宇宙から見れば何でもないことと言わ
れている点に興味を持った。だがこの場所では、書かれた当時の状況、すなわち冷戦の影響が取り上げら
れていた。それは「エスパイ」でも同じである。また、作品中に使われたデータ等を完全に頭にいれてい
らっしゃる様子は流石「ペンティアム付きブルドーザー」だった。
 そして印象的だったのは、社会の変化による人間の変化を描けるのはSFであり、故にSFが文学であ
るか否か、ではなく文学がSFなのだというお話だった。
 文学、と大上段に構えるのは好きではないが、一つ前の企画での話とあいまって考えるところが多かっ
た。ある条件の下での社会をえがくことはそれなりに意味があるのかもしれない。
 
 閉会式は毎年どおり。暗黒星雲賞の賞品は「暗黒星雲賞」の字が染め抜かれたのぼりだった。うわあ
欲しくない。ゲスト部門の小川一水氏は心底嫌そうだった。また、そのわかりにくさと、オープニングで
の席の出現が票を集めた「長良川国際会議場」の関係者の方は苦笑を浮かべていた。涙を浮かべていた昨
年のホテルの方とは対称的である。
 シール交換でトップは昨年と同じ少年が連続。何かもう将来が…。
 センスオブジェンダー賞、海洋ベストSF授与式と続き、締めは実行委員長の挨拶。やっぱり朴訥。
 出口に向かう途中で、星雲賞投票者への副賞であったロケットのバルーンを撮影してらしたので、悪戯
心が湧いて手持ちのロケット型ストラップを提供。それなりにうけていたようだ。
 バス乗り場でタクシーに貼られているステッカー「歓迎 日本SF大会G−con様」に口あんぐり。
 
 そしてまた来年。合宿制でないこともあり、駆け足で終わった感のある大会だった。だが私にとっては
創作上の参考になることが多々あった楽しい大会だった。
 願わくば、ずっと参加しつづけられますことを。そして2007年横浜での世界SF大会、私が出席できるにせよ出来ないにせよ成功したものであったと語られますように。
 
 
SFコンベンションその他外出記