著書,学術論文等

著書,学術論文等

(著書)

五井一雄,丸尾直美,熊谷彰矩(以上編者),寺本博美,前川俊一による共著。市場経済システムは経済問題を解決する場合その有効性を十分に発揮するが,社会の経済現象は一般的にそれのみでは解決が困難なである。しかし環境,福祉などは経済政策の課題として重要でありこうした経済課題について検討したものである。第2章「外部経済と公共財・環境論」(37-64ページ)において,市場の失敗に対する政府の経済的機能に実証的根拠を与え,同時に財政の主機能のひとつ,つまり資源配分の調整に関連する外部性・公共財・環境問題を効率性追及の観点から理論的に解明している。

丸尾直美,熊谷彰矩(以上編者),関谷登,植村利男,寺本博美による共著。経済分析は基本的には定量分析を中心とし,対象の質的なカテゴリーの相違ないし対立を無視する傾向が強いが,計測が容易でない質的ないしは定性的な政策課題について論じたものである。第8章「住宅の質的改善と住環境」(192-218ページ)において,住生活の質的向上のための住宅政策を住宅供給主体との関連において検討している。そのなかで量から質への政策的対応の転換に向けた合意の形成と今後の方向性について政策提言がなされている。

五井一雄,丸尾直美,高柳暁,田中拓男,熊谷彰矩(以上編者),倉科寿男,中野守,吉田良生,寺本博美,植村利男,北島健二による共著。経済政策の体系を図を用いて解説し,教科書として構成されたもの。第8表「政策主体の類型と行動」(22-23ページ),第 9表「政策決定プロセスと政策評価」(24-25ページ),第10表「政策判定基準1(効率基準)」(26-27ページ),第11表「政策判定基準2(安定・分配基準)」(28-29ページ),第27表「経済的不平等と所得・資産分配政策」(60-61ページ),第28表「貧困と社会福祉制度」(62- 63ページ),第29表「所得保障と公的年金制度」(64-65ページ),第38表「産業組織政策--独占禁止政策」(82-83ページ),および第42 表「公企業の経済学」(90-91ページ)において,政府および財政の役割に関連する領域を新しい知識のもとにレビュー,解説した。

加藤寛(編者),丸尾直美,関谷登,大岩雄次郎,谷口洋志,横山彰,細野助博,寺本博美,黒川和美,川野辺裕幸,原田博夫による共著。従来の理論経済分析の手法における現実対応への不十分さに反省を加えて,政策研究のひとつの基盤を提供する公共選択論の日本への導入を画した書である。第6章「官僚は“召し使い”にならない」(162-194ページ)(改訂版,第7章「官僚は“召し使い”にならない」(197-229ページ))において,行政機構の行動が経済理論でどの程度説明されうるかいくつかの仮説を明らかにし,加えてその政治経済的意味を論じた。

寺本博美(編者),前川俊一,植村利男,酒井邦雄,村上亨,小沢健市,吉田良生(編者),小林保美による共著。第1章「利益集団の政策要求とその経済的効果―利益集団の政治経済学的接近」(13-34ページ)を担当。現代社会における政策過程は,個別の経済主体というよりも集団として政策意思決定過程で大きな影響力をもつ利益集団が存在するが,その行動を DUP 活動あるいはレント・シーキング活動との関連において分析し,利益集団の経済学的解明の手がかりを与えたものである。

学位論文に基づいて構成されたものである。これまで経済学の分野において官僚機構について体系的に論じられたものが極めて少なかったが,本書は,公共支出の決定過程において重要な役割を果たしている官僚機構を対象とした経済理論的な分析を行ったものである。官僚機構を伝統的な経済学における合理的主体として把握し,その行動を供給サイドおよび需要サイドから考察した。特性と公共支出の決定に及ぼす効果を公共選択の手法を用いて政治経済学的に分析し,行財政改革を理解するための理論的基礎を明らかにしたものである。

仲宗根誠,杉山孝金,相原正,白井正敏(以上編者),山崎研治,水野正一,水谷研治,鐘ヶ江毅,山崎誉雄,真継隆,千田純一,前畑幸子,奥野博幸,後藤浩,上河泰男,飯田経夫,木村吉男,松永嘉夫,菅沼澄,野村茂治,沈徹,宮坂正治,神谷満雄,田中博秀,渡辺悌爾,寺本博美,柿元純男,山内弘隆,孫禎睦,李海珠,金日坤,辛泰坤,伊東和久による共著。「フィスカル・イリュージョン仮説と合理的選択」(439-450ページ)において,投票者が政府に対する需要を決定する際に生起する財政錯覚を既存のミクロ経済理論との比較のなかで理論的に検討し,さらに中央政府と地方政府の経済的連携の文脈において展開されている財政錯覚仮説の意味を探った。

酒井邦雄,寺本博美,吉田良生,中野守(以上編者),小林保美,久下沼仁笥,小柴徹秀,今野昌信,植村利男,村上亨,前川俊一,角本伸晃,吉田雅彦,広羽孝清による共著。経済活動の分析は経済体制およびそのサブシステムを与件として行われてきたが,近年における体制の転換あるいは体制内における変革など経済活動が展開される場それ自体の分析を回避することができなくなってきた。本書はかかる時代環境の変化をとらえて経済の制度を分析したものである。第2章「地方分権の政治・経済モデル―コンスティチューショナル・アプローチ―」(21 -36ページ)において,分権の意義を問いなおし,政治経済制度としての地方分権制度をコンスティテューショナル・エコノミックス(立憲経済学)の観点から論じた。

西村紀三郎,藤原碩宣(編者),平井源治(編者),速水昇,松岡博幸,寺本博美,江川雅司(編者),青木寅男,前川俊一,綱辰幸(編者),大浦一郎(編者),和田佐英子,佐藤晴彦,山谷修作,大石和博による共著。「財政構造改革下の地方財政:とくに地方分権と財政選択の理論を中心にして」(113-136ページ)において、地方行財政の現状を概観し、地方自治体における行財政改革をヨーロッパの実践とわが国の実験(三重県の実例)について考察し、国と地方との関係,財政選択について経済理論的に検討した。なお,本論文は1998年度文部省科学研究費補助金(基盤研究B)を受けた研究成果の一部である。

酒井邦雄,寺本博美,村上亨,吉田雅彦による共著。経済政策を学ぶための現代版入門書。13章から構成されている。第2章「個人と集団」,第3章「民主主義のパラドックス」,第4章「政策決定過程」,および第10章「所得・資産分配政策」を執筆。第2章から第4章までは公共選択ベースの経済政策の基礎理論である。また,政策効果は社会や経済の制度と無関係ではなく,制度が政策の成功と失敗に深く関連するという考え方が取り入れられている。

吉田良生・角本伸晃・久下沼仁笥・寺本博美による共著。ミクロ経済学の入門書。大学に入学して初めて経済学を学ぶ人を対象に,経済とは何か,経済学はそれをどのように説明しているのかを明らかにする教科書。経済学における2つの核のうち,ミクロ経済学についてわかりやすく解説。章末に練習問題を付してある。第6章「外部性と公共財の経済分析」を執筆。吉田良生・角本伸晃による『マクロ経済学入門』と酒井邦雄,寺本博美,村上亨,吉田雅彦による『経済政策入門』とあわせて3部構成。

政策分析ネットワーク編によるポリシー・リテラシーを身につけるためのガイドブック。「政策」「政策形成」という言葉が新聞を始めマスコミに登場するようになった。政策に対する一般の人々の注目度を上げると同時に,政策をめぐる議論の水準を上げる「きっかけや材料」を提供することを目的として書かれたものである。第II部政策研究のブリーフィング,10.都市・地域政策クラスタ(1)都市・地域の再生,(2)コミュニティと産業政策を執筆分担した。

三嶺書房刊(改訂版1999年1月)の復刊。公共選択による社会現象に対する分析アプローチは,近年新たに注目される。純粋経済学が市場分析により精度をもって取り組んでいる一方で,市場の作用の完全性と自由度を担保するための条件整備の問題に取り組む政治経済学との協働は,現代のひとつの特徴である。この分野における邦語の教科書が乏しいということから,復刊が要請され,啓蒙書としての役割を果たしている。第7章「官僚は“召し使い”にならない」(pp.197-229.)を担当し,官僚および省庁の行動の帰結を経済学の分析ツールで解明し,政治経済的意味を説いている。

酒井邦雄・村上享・吉田良生・久下沼仁笥「第2部 制度変化のケーススタディ 第6章 税財政改革における政策基準と制度改革の方向」(120〜145ページ)を執筆。少子高齢化社会における租税制度の問題を取り上げている。租税制度は経済社会を支える重要な社会基盤であり,経済社会を投影するスクリーンでもある。少子高齢化社会では,租税制度は安心をもたらし,若者から高齢者までが制度を支え,個人や企業活力を引き出すものでなくてはならない。それゆえ,租税制度の改革に際しては,効率性の基準だけでなく,共通な社会的費用を広く公平に分かち合う基準に基づかなければならない。改革は単なる増税ではなく,コモンプール問題を解決する方向でなされるべきことを主張している。

寺本博美編著。三重中京大学地域社会研究所の2005〜2006年度自主研究から生まれた研究書。環境問題のうちで,とくにニュージーランド,カナダを源流とするゼロ・ウェイストの考えたと実践例をもとに,国内では徳島県上勝町の実践 における基本的な「Waste」に焦点をあて論究され,まとめられたものである。本書は,8つの章から構成されている。第1章,第3章(若山幸則,濱口高志,大谷健太郎,鈴木章文と共同)および第4章(若山幸則,濱口高志,大谷健太郎,鈴木章文と共同)を担当。第1章「地域社会のデザインとゼロウェイストの経済学」(pp.1-21.)では,これまでの経済問題と環境問題との間におけるトレード・オフという呪縛からの解放の可能性をゼロ・ウェイストという概念に求めるとともに,ゼロ・ウェイストの経済学における意味連関を探っている。

伊藤力行・寺本博美編著。三重中京大学地域社会研究所開設20周年および大学院政策科学研究科開設10周年を記念して編纂された。本書は8章から構成されており,ラスウェル,河村瑞賢に政策と科学の原点を求めながら,経済,政治,法律,社会など国内外の政策問題を明らかにし,解決の現状と方向性を示す。地域で「もの」と「こと」を考えるひとつの道標の役割をはたす。担当章の第2章「公共部門分析モデルの展開---最適経済モデルと経営者モデル---」(pp.21-39.)では,政策過程を決定と実施の局面にわけ,ニューパブリックマネジメントおよびパートナー・シップあるいは地域協働にもとづいたモデルを実施主体の誘引とそこから導かれる帰結を再検討する。

飯島大邦・谷口洋志・中野守編著。本書は,中央大学経済研究所経済政策研究部会の研究員による論考を収集した論文集である。第2章「地方公共政策の分析視角―経済的制約と費用―」(pp.45-70)では,地方における公共政策の実態を踏まえ,同時にこれまでの地方公共団体の政策過程における自身の個人的な体験から得られた知見に依りながら,現在の地方公共団体の政策モデルと制度の限界を経済的制約と費用概念を通して明らかにすることを目的としている。

酒井邦雄,寺本博美,村上亨,吉田雅彦による共著。経済政策を学ぶための現代版入門書『経済政策入門』の第2版。13章から構成されている。第2章「個人と集団」,第3章「民主主義のパラドックス」,第4章「政策決定過程」,および第11章「環境政策」を執筆。第2章から第4章までは公共選択ベースの経済政策の基礎理論である。また,政策効果は社会や経済の制度と無関係ではなく,制度が政策の成功と失敗に深く関連するという考え方が取り入れられている。

三重中京大学地域社会研究所編。第1章「地域社会における大学の存在証明:エコノミック・ソリューションとコミュニティ・ソリューションを求めて」を執筆。経済学の立場から、地域における地方大学の役割を考察し,それが地域社会の持続可能性や発展に欠かせない存在であることを明らかにした。

淑徳大学コミュニティ政策学部編。終章「大学とコミュニティ―政策のプラットフォーム」および「あとがき」。コミュニティ政策学部の学びを紹介している。

(訳書)

五井一雄(監訳者),鮎沢茂男,中野守,吉田良生,寺本博美,植村利男による共訳。本書はアルフレッド・ゾーバーマン著『Aspects of Planometrics』の日本語訳であり,ソビエト経済学の理論的思考と計画技術に与えたインパクトを解明することを目的としたゾーバーマンの論文集である。新しいソビエト経済学は伝統的なマルクス主義経済学とどのように関わりあっているのか,また社会主義的経済計画化と統制の効率を高めるためにどのような計画手法を考えているのか,それは伝統的な計画経済の理論と実践にどのようなインパクトを与えてきたのか,という問題に対して該博な知識と正確な情報にもとづいて詳細に吟味し,理論的な分析と検討が加えられたものである。第13章「投資基準」(訳書,163--181ページ),第14章「効率的な資本形成」(訳書,182-202ページ),第17章「貿易の効率基準の探究」(訳書,241-269ページ),第18章「外国貿易の計画化」(訳書, 261-289ページ)を担当。

加藤寛(監訳者),深谷昌弘,飯島太郎,太田耕史朗,原田博夫,大城弘明,関谷登,長峰純一,大岩雄次郎,中村まづる,石丸徹,久保田昭一,奥井克美,細野助博,佐々木勉,内田英憲,増山幹高,川野辺裕幸,寺本博美,竹島正男,谷口洋志,横山彰と共訳。本書はデニス C.ミュラー著『Public Choice II』の日本語訳であり,学術誌『公共選択の研究』発行10周年を記念して,編集委員会の総力を挙げて取り組んだ成果物である。本書はJounal of Economic Literatureのサーベイ論文として書かれたものであり,後に補筆され『公共選択』として刊行され,さらに,必要な数学的証明も加筆された質の高いサーベイ論集であると共にテキストブックでもある。「第17章 政府の規模」(訳書,311-336ページ)を担当。 \end{enumerate}

(論文1)

公共財の研究の中心は,その財の特性とそこから生起するフリーライダーなどの経済現象の分析とその解決策,供給の最適条件の導出と解析など効率性追求の文脈のなかに置かれ,実証経済学のなかで深化されてきたが,規範経済学においては効率基準ともう一方の重要な基準すなわち公正基準とはトレード・オフの関係にあることが知られている。そこで公共財の供給について,その効率的供給と租税負担の決定が所得分配の公正基準を同時に満たしうるかどうかを理論的に検討した。(pp.121-135.)

公共財はその便益のおよぶ範囲によって,国レベルで供給されるものと地方自治体レベルで供給されるものとに分けて考えることができるが,供給の理論分析もそれに対応して行われ必要がある。そこで地域的公共財の供給に際して,一行政区域の公共財供給が隣接する行政区域の住民にも利用可能な便益をもたらす場合の最適供給条件を明らかにし,加えて住民投票と住民の地域間移動(足による投票)が地方政府の公共財供給の意思決定に及ぼす効果を検討した。(pp.81-95.)

 

公共財というよりも政策的判断から社会的ニーズとして認知され,その供給が望まれる財・サービスは価値財と呼ばれている。電力,鉄道サービスなど公共企業体,政府特殊法人などいわゆる公企業が供給主体となって生産または供給しているサービスは,市場を通じて生産・供給が可能である。別言すれば料金形成が可能な公共サービスであり,その価格形成の方式について数学的手法を援用して経済理論的に考察し,価値財供給の政策的インプリケーションを探った。pp.133-150.)

公企業の存在理由を政治経済学あるいは公共選択の枠組みのなかで考察した。公企業は理論的には規模にかんして収穫逓増という特性によって擁護されているが,公企業の役割が効率性の追求よりも公共の利益の追求にあるため,そこにおいて組織非効率あるいは X-非効率が看過されてしまう。これら非効率性の原因とそれを改善するために公企業に課されている財務上の制約・ルールの変更が経済的福祉にどのような効果を及ぼすかを分析した。(pp.127-143.)

公共予算の意思決定過程では最終的には国会における予算委員会の果たす役割を看過するわけにはいかない。そこで予算の意思決定過程を公共選択の枠組みのなかでとらえ,行動特性のひとつとして示された獲得予算の最大化を目指す省庁と予算委員会との間に生起する利害関係を中心に考察し,省庁と予算委員会の間における利害関係の相互性あるいは対立の領域を空間的投票モデルを用いて明らかにすることによって,それぞれの財政上の帰結について定式化を試みた。(pp.1-25.)

公共財の供給の経済分析は,伝統的には供給の最適条件の導出にかんする分析を中心とし,供給主体自体については詳細に言及することが希薄であった。そこで公共財の実際の供給主体となっている官僚機構を対象に経済理論の文脈のなかで,非効率性を内包するといわれている官僚機構の行動と供給の意味を解明しようとしたものである。とくに官僚機構および官僚の行動特性を予算最大化と効用最大化に求めて分析し,公共サービス供給における官僚的供給の特性,すなわちそこから生起する非効率の意味連関を公共支出の拡大や資源の過度利用の潜在的可能性として明らかにした。(pp.19-38.)

学位論文。現代政府の経済活動の領域は,いわゆる「市場の失敗」にぞくする公共財の供給,所得分配の構成の実現,景気・物価・雇用の安定などの目標を持った領域である。しかし,伝統的な経済学では政策主体としての政府にかんしての詳細な経済分析は行われてはいない。政府は全知全能の神あるいは理想的な意味での調整者として理解されていたからである。本論文では,いわゆる「政府の失敗」の原因を公共政策の民主主義的意思決定ないし選択のプロセスにもとめ,この民主主義的選択プロセスを経済学の対象とする公共選択学派の方法論的個人主義の接近方法を用いて利己的な効用関数を備えた現実的な官僚像を想定し,公共サービスの供給サイドおよび需要サイドにおける官僚行動の経済分析を試みた。審査報告については,『博士学位論文(審査報告)』(第1号,中央大学,昭和59年3月発行)(62--70ページ)に掲載されている。

官僚機構及び官僚(公務員)は公共サービスの供給者として理解される一方,組織としてまた個人あるいは集団として公共サービスに対する自らの需要形成者であるという観点に立って,官僚行動がもたらす結果に焦点をあてて需要サイドの分析を試みた。省庁および官僚(公務員)自体の公共サービスに対する需要の潜在的圧力の形成,公共支出の意思決定過程における委員会,民間の利益集団,投票者などとの利害関係を通して形成される公共政策の需要の特性とその経済的帰結について検討した。(pp.1-14.)

国と地方自治体とは公共支出(予算)面で密接な関係があるが,肥大化傾向を持つ国の公共支出と地方自治体の予算過程とを対応させながら,特に歳出構造の点検および再構成の中心のひとつにあげられている補助金の問題を公共選択の観点から分析した。公共支出増大要因の行政サイドにおける意味を探求し,補助金制度のあり方,補助金がもたらす便益の分配,地方自治体サイドにおける公共政策実施の主体性,地域的公共財の効率的供給に及ぼす影響,国と地方自治体との間に生起する政策評価の相違などを検討した。(pp.18-36.)

地方政府の支出活動は,国の行政上のヒエラルキーのなかで,中央政府に依存しなければならない場合がある。そこには財源配分にかかわる中央と地方の関係という別の基本的な問題が含まれるが,地方政府は種々のタイプの財政援助を受けている。そこで国の地方に対する財政援助ないし贈与の地方公共支出に及ぼす影響についてハエ取り紙効果を中心に財政錯覚モデル,租税代替モデルおよび供給独占者モデルを用いて理論的な考察を行った。(pp.79-90.)

文部省,学術情報センター,日本学術振興会,経済団体連合会,日本経済政策学会,日本計画行政学会後援による「大学と科学」公開シンポジウムにて発表したものをまとめたもの。内容はつぎのとおりである。(1)行政機構の行動原理の特徴,(2)行動の経済学的帰結,(3)官僚の役割についての三つの見方,(4)地方自治体の役割,(5)「ハエ取り紙効果」とは何か,(6)「ハエ取り紙効果」と三つのモデル,(7)復帰水準と最適水準。

行政機構の行動を公共選択の文脈において明らかにし,行政機構の主要局面のひとつである政策の貨幣的側面における予算編成のレベルに限定して,その経済的インプリケーションを探った。予算過程における省庁の行動は,増分主義モデルと委員会モデルすなわち内部官僚制モデルと民主主義モデルのなかで考察され,財政規模拡大の要因を説明する場合の理論モデルを提供した。増分主義モデルと委員会モデルI(官僚と政治家における利害が一致しているケース)では,時系列上の省庁活動の拡大の局面を理解することができ,委員会モデルII(官僚と政治家との利害が対立するケース)では,均衡財政主義から公債発行主義への財政運営の転換を契機として,昭和50年代以降に拡大する赤字財政の状況下における省庁の行動を理解することができることが示されている。(pp.171-178.)

国と地方の政策決定は,混合経済システム下の分権的政策意思決定を原則とするとしても,現実には国--県--市町村の間に強い集権的な特徴を見出すことができる。支出,固定資本形成では,地方団体の側における裁量の余地があるという指摘があるけれども,政策決定の制度的な(constitutional)側面から再考した。分権化の意味が明らかにされ,地方自治体における政策決定の環境と課題が検討された。(pp.117-124.)

一方ではソ連を中心とした社会主義経済諸国の崩壊と新しい制度への転換の模索,他方では資本主義経済諸国における市場中心への回帰という経済現象を踏まえて,80年代末に展開され,各国の経済政策に対する考え方に大きな影響を及ぼしたM.フリードマンとJ.K.ガルブレイスのアイデアと洞察を基礎に市場と政府あるいは非市場における失敗を理論的な側面から再検討,評価するとともに経済制度選択の規範的な論点を展望した。(pp.243-255.)

政府の役割は市場補完的な経済政策にとどまらない。また,政策目的間の二律背反・同時解決の不可能性が内包されている。政策的課題の解決に際して,政策の立案・実行時に政策課題の選択,費用便益の計算などに答えなければならない。本稿では,政策目的選択時に使われてきた社会的厚生関数の意味を数値例を用いて明らかにする一方,戦後日本の経済政策の目的と成果を経済合理性と政治的選択の文脈のなかで検討した。なお,1998年度文部省科学研究費補助金(基礎研究B)による成果の一部である。(pp.87-100.)

環境政策を取り巻く時代環境と諸条件の変化,さらに制度的な転換を踏まえて,地域経営という観点から,環境政策のデザイン設計にかかわる政策決定上の課題を明らかにし,問題解決のための基本的な考え方を展望している。環境問題への政策的取り組み,とくに地方分権と地域経営という観点からの取り組みは,メインストリームの経済学を現実で考えるときの格好の現代的課題である。これまでの環境政策はどちらかといえば法的・行政的な解決を志向しているが,政策の実施に関わる費用計算が看過されている。政策に関連する費用(政策過程で生起する機会費用と取引費用)を組み込んだモデルによる解決の方向性を探究している。(pp.83-96.)

日本の大学入学者規模のなかで,なお大きな比重をしめる学部のひとつが経済学部である。しかし,経済学教育の実態は別の様相を示している。すなわち,経済学教育におけるパラドックス(経済現象理解のために必要な道具としての経済学と精巧すぎて使い勝手が悪い経済学との間における矛盾)のため経済学離れが進んでいる。こうした現状を踏まえて,英語,コンピュータ,会計などの言語と同様に生活の「共通言語」になっていない経済学の教育を大学および社会の観点からみることによって,経済学を一般教育のコア「課目」とすることの意義を明らかにすることを目的としている。論点は経済学的思考の重要性である。(pp.57-69.)

2004年度松阪大学地域社会研究所自主(共同)研究に関する寺本博美(研究代表者),若山幸則,鈴木章文,濱口高志および大谷健太郎による共同論文。環境政策と地域経営の実践として,他方,産業政策の延長線上で現れたゼロ・ウェイスト政策の意味を,フィールドワークを下に分析することを目的としている。人口面で,かつ地理的側面において条件不利地域の地域持続可能性の実験が日本の各地で行われている。モデルとしての一般化は,学問的には興味深いが,地域経済政策としてみたとき,その必要条件と十分条件の見極め,発見は重要である。観察対象地である徳島県勝浦郡上勝町にはいくつかの特異な条件,コミュニティ存立の条件が見出されてた。論文全体の統一をはかりながら,「はじめに」と「おわりに」を執筆。(pp.41-63.)

経済政策は,経済と政治との接点のなかで形成,実施されるが,政策の実行は,基本的には立憲段階ではなく行政過程 にある。たとえば,規制あるいは規制緩和の問題をみるとき,論点は規制の経済効果であり,法,ルールの改正が経済行動におよぼす効果を予測しなければならない。こうした観点から,近年日本において,方法論的には必ずしも整合的ではない法学と経済学が,共通の問題への取り組みが始まった。論文では,この分野における原点を「法哲学者アダム・スミス」に求めて,現代の規制緩和政策を考察する手がかりを示している。(pp.17-26.)

「循環型地域社会の政策デザイン---徳島県勝浦郡上勝町における「ゼロ・ウェイスト」政策の展開---」,共,『松阪大学地域社会研究所報』第17号を展開したものであり,2年間の研究の総括である。ゼロ・ウェイスト・アカデミー・ジャパンの設立と展開,ゼロ・ウェイスト実践のひとつの新たな試みである木質バイオマスの取り組み,カード型「環境創造通貨」のゼロ・ウェイストカード導入の試み,「日本で最も美しい村」連合への参加など地域再生の上勝方式を総合的に検証し,今後の展開の方向と合併後の新松阪市の建設を進展に寄与する要因を示している。(pp.105-127.)

公共政策を設計・作成するとき,民主主義的手法の重要性が主張されるが,その際,たとえば,格差解消は正義である,環境破壊は悪である,など,絶対視された観念では何も解決されない。主観的価値判断に依存しなければならないが政策問題にとっては宿命である。だからこそ,合理的で客観的な判断にもとづいた行動が求められるのであるが,集合的な意思決定を要する場におけるレント・シーキングやニムビ症候群を政府の失敗の文脈のなかで解明している。(pp.11-24.)

日本における経済改革の基本的な考え方であった「効率性」の概念を,ヨーロッパ,とくにイタリアにおける経済改革=構造改革を手がかりに,戦後の経済改革の意義を再検討した。市場原理主義とは対極にあったのがイタリアの経済改革であるが,イタリアの社会経済学者アルフレード・V・パレートこそ,効率性を論じるときに看過されえない。効率性追求の方法は,一面では経済体制の問題でもある。 (pp.9-21.)

「カルチュラル・ツーリズムの可能性と三重県における資源」,共,2007年3月,『三重中京大学地域社会研究所報』第19号

観光について,近年,文化的な要素を取り入れながら,新しい方向性が模索されている。本稿ではとくに美術館と博物館を対象に多様なツーリズムのうちカルチュラル・ツーリズムの可能性について論じた。カルチュラル・ツーリズムの概念整理からはじめて,各地の美術館と博物館をいくつか抽出し,フィールド・ワークにもとづいて,カルチュラル・ツーリズムの実態を明らかにした。5節4項「観光経済としてのカルチュラル・ツーリズム」(pp.135-137.),6節「おわりに---今後の研究の課題と方向」(pp.137-139.)を執筆分担した。西孝,大谷健太郎と共同執筆。(pp.113-140.)

経済政策基準の根幹である効率性を日本における構造改革の歴史を辿りながら,「小泉構造改革」の意義を探求した。構造改革は制度改革を進める上での必要条件であるが,経済政策それ自体が政治的課題であり,構造改革を制約するのが制度である。経済理論的に,とくに市場経済を対象とした新古典派経済学あるいは新古典派総合の手法に加えて,マクロ経済学における政治的要素を看過することに解決しなければならない課題を残していることが確認され,経済体制論あるいは比較経済制度論の重要性が指摘されている。(pp. 71-87.)

「カルチュラル・ツーリズムの可能性と三重県における資源」,共,2007年3月,『三重中京大学地域社会研究所報』第19号を展開したものであり,2年間の研究の総括である。9節「カルチュラル・ツーリズム展開の方向性」(pp.86-89.)および10節「まとめ」(pp.89-92.)を執筆分担した。空間的,時間的に不利であることが可能性を減じないこと,展示物と建築物の関係においてみれば,常設展が重要であること,文化と経営とのあいだに接点を見出していることが明らかになった。西孝,大谷健太郎,大西正基と共同執筆。(pp.67-93.)

地域活性化のひとつの方法として,固有の地域資源,とくに文化資源を活用することの意義を考察している。観光という手法を用いることが一般的であり,近現代の人工物からどれだけの経済効果を期待することが可能か,あるいは地域に固有の歴史的文化資源に経済効果のみを期待することが正論なのか,という観点から,松阪市を対象に考察している。関連する他地域の展開をフィールド・ワークし,その成果の一部が検証されている。5節3項「犬山市の事例」(pp.170-172.)および6節「むすびにかえて---要約と今後の課題」(pp.173-174.)を執筆分担。大西正基,西孝と共同執筆。(pp.155-175.)

政策問題の解決にあたり,分析概念としてのコミュニティが重要な役割を果たすことが,とくに近年強く意識されるようになってきた。学問領域として確立していない。一方では総合的な社会科学の一分野として,他方では実践的な性格を強く意識した分野である。これまでは,政治学や社会学を中心に展開されてきたが,解決すべき問題の核心は経済社会のなかにある。この論文では,点在するコミュニティ研究を経済学の観点から整理し,今後の研究の方向を明らかにしたものである。(pp.83-95.)

2008年12月に中央教育審議会は,21世紀の日本の高等教育のあり方に関する基本的考えを「学士課程教育の構築に向けて」(答申)としてまとめた。大学教育に強く求められていることは,「学士力」という言葉で代表された。しかしながら問題は,少子化と高齢化が同時進行する現代社会において,少子化が高等教育の環境を大きく変えたことによる。\MARU{1}知識・理解−多文化・異文化に関する知識の理解,人類の文化,社会と自然に関する知識の理解,\MARU{2}汎用的技能−コミュニケーション・スキル,数量的スキル,情報リテラシー,論理的思考力,問題解決力,\MARU{3}態度・志向性−自己管理力,チームワーク,リーダーシップ,倫理性,市民としての社会的責任,生涯学習力,および\MARU{4}総合的な学習経験と創造的思考力,の4つを構成要素とした学士力の教育課程 (Curriculum Policy)に導入されたサービスラーニングを政策科学系学部における教科,特に経済学教育においてどのように展開するか,その視点を明らかにしている。

サービスラーニング、アクティブラーニングという教授法の導入が、ミクロ的には社会科学、特に経済学の学習にどのような効果をもたらすか。他方、マクロ的には学生の学力低下が、グローバル社会のなかで将来の日本にどような影響をおよぼすか。教育政策の重要な問題のひとつとして取り上げられている。サービスラーニング、アクティブラーニングについては、大学関係者の間では徐々に浸透しつつあるように思われる。しかしながら米国流の教授法が定着するには、民主主義の定着と同様に時間を要するかもしれない。サービスラーニング、アクティブラーニングの理解について、まだ不十分さを残すため、ここでは、若干の補足を行った。そして地域経済学、都市経済学はもちろん教育経済学、医療経済学、環境経済学、資源経済学など応用経済学の分野は、経済学におけるサービスラーニングの導入になじみやすいのかもしれない、ということ示した。

(論文2)

地域経済の発展ないしは活性化を住民の選好に基づいた地域間競争の果実であると考え,三重県を例に地域政策のあり方を検討したものである。相対的に中小規模の人口から構成されている三重県内の13市およびその周辺地域において展開される地域政策が,隣接地域の地域政策とは独自に,しかし相互に刺激しあう形では展開されていない。住民の移動にかんする粘着性が強いことが一因をなしているものと考えられる。地方の時代が展開されようとしているが,本稿は住民の移動性を考慮した政策への発想の転換を示唆したものである。

自然環境環境に恵まれていることは,そのまま観光とは結びつかないし,地域の活性化あるいは県・市町村の経済開発の要因となると単純には考えられない。地域活性化のひとつの手段として観光を考えるならば,本来的には自由財である自然環境を経済財に変えないかぎり,有効な手段にはなりない。このような視点から,三重県の相対的に豊かといわれている観光資源の活用の現状を明らかにし,今後の活用のあり方について検討した。

政府財源調達の方法として,租税と国債の経済効果については永年論争されてきた課題である。租税と国債の経済効果が同じとする等価定理が財政再建ならび税制改革に関連して論じられるようになったが,リカードが明らかにした等価定理の今日的意義を自由主義経済の枠組みにおいて再検討した。リカード=バロー,ブキャナンらの国債発行の禁止あるいはその政治経済的効果を考慮した見解とラーナーやケインズ,モジリアーニらの裁量的マクロ経済政策の重要性から国債による財源調達の意義を評価する見解とを対比させて検討した。

高齢化社会を本格的に迎え,高齢化の進行が早い三重県の将来における社会システムを長寿社会システムとしてとらえ,それへの移行が円滑に行われるための環境整備,それにかかわる課題の調査研究を行ったが,それを踏まえて,人口年齢の成熟化した社会おいて豊かさを享受できるための実践的で具体的な方策を図るときの基本的な考え方---健康・生きがい・地域連帯---を提示した。

地方分権の推進が図られているなかで,三重県の置かれた地理的な特性(県北部の名古屋圏化,県西部の大阪圏化,県南部の紀州化)が行政におけるプロジェクト推進にどのような影響を及ぼすかという課題について,行政上の「境」に焦点をあてて,「県境」の持つ意味を経済学の視点から考察したもの。とくに経済的な境と行政的な境または政治的・文化的な境における不一致が,経済的な不利益となり,関連する地域住民の生活改善や地域社会の全般的な改善を妨げる要因となりうることについて論じたものである。

人口構造における少子化と高齢化は国レベルはもちろんのことであるが、むしろ個々の地域あるいは自治体レベルで様々な課題を生起させている。国民の長期的な観点からの生活の安定は、経済政策の重要な課題のひとつである。一国の生産性の維持に不可欠な労働力の確保は、既存の社会制度(雇用、家族、行政)の変革を必要とする状況になってきている。家族、企業、行政それぞれの観点から問題点を整理し、高齢化率上昇--労働力不足--女性が仕事を持つ--出生率低下--高齢化率上昇という高齢社会の悪循環を回避するための経済政策さらには社会制度改革の基本的な考え方を提示した。