(1)歴史
1906年英仏語バイリンガルのスタッフによるアメリカ方式の
治療ができる病院建設をはかろうとする動きが生まれ、それ
を受けて1910年、パリ郊外西部のNeuilly(ヌイィ市)
に英仏語バイリンガルスタッフによるアメリカ方式の治
療ができる病院としてオープンした。100%個人から
の寄付で建設された非営利団体の病院である。アメリ
カの法律に従う総合病院として最先端の医療サービス
を提供している。
         
(2)病院の概要

この病院は、質の高い医療を行うためのアメリカで規定されたJCAHAO( Joint Commission on  the  Accreditation of Healthcare Organizations )の基準をみたし承認されたヨーロッパで唯一の私立総合病院である。 日本には珍しい診療科として、腫瘍・癌科、糖尿病科、老人科、感染性・熱帯科、血管・静脈科などがある。また、非営利の医療財団組織ということで、仏政府、米政府より補助金はいっさい受けておらず、財界人である26人の理事は、無償で病院運営にあたっている。さらに、500名の医師が病院と契約しており、その内の150名が外来診療を行っている。これら全科の医師達と225名のバイリンガルの看護師と医療技術士が3交代制で24時間体制を引いている。さらに6名の米国人医師と1名の日本人医師が病院内で診察を行っている。また、日本人看護師も1名おり、看護活動に携わっている。歯科を含めた救急外来部門は日・祝祭日を問わず24時間診療体制を取っている。病院の特色として、患者は必ず受け入れる、公立病院とは違い患者のたらい回しはせず、48時間以内には診断を下す、という基本方針があり、最新医療設備が備わっている院内でほとんどの検査が迅速になされている。また、新しい機器が導入され、軽度の病気なら、朝手術を行い、夕方には退院という一日入院患者が年間2500名ある。外来・入院患者の65%はフランス人であるが、100ヶ国以上の外国人のうちアメリカ人患者が7%、日本人患者が4%を占めているということであった。そのため、1990年より、トリリンガル・スタッフ(日本語・英語・仏語が話せる医師、看護師、通訳)が外国人の患者のためにアドバイスや様々な援助行為を行うようになった。このスタッフの活動により、パリ周囲在住の日本人らにも、より広くアメリカン・ホスピタルの存在が知られるようになったということである。さらに1995年には、日本人医師が来仏し、日本人を対象に外来診療・治療にあたっている。他方では、ニューヨークのプレスビテリアン派教会病院、コーネル・メディカル・センターとパリ第五大学の医学部と提供し、医学情報技術の交流、生涯教育プログラムの研修会なども院内の国際会議場において主催している。
(3)病院内を視察して
私たちは、まずカルテ保管室から見学が始まった。多数の外来・入院患者に対応するために、優秀なスタッフによりカルテが管理されている。医師特別委員会による監査も実施されている。厳重な管理のプログラムのもと、診断治療の技術方法の向上と質の高い診察の維持に貢献しているということであった。病院の全医療従事者は約800名、その内、看護師は300から350人が契約している。病棟では、看護師1人に対し患者4 、5人の割合で配置されている。一人の患者に担当の看護師が付く「受持制」は取っていない。また、様々な勤務契約のためか看護師は慢性的不足の状態のようであった。看護の仕事には、それぞれ異なったユニホームを着用した看護師と看護助手があたっていた。平均年齢30歳、男性看護師も数名いるということであった。
 看護師資格は、バカロレアを取得後、38ヶ月の高等看護専門教育を受け国家試験に合格しなかれば取得できない。看護助手は1年と教育期間が短く、日本でいう准看護師のような職種と考えられる。いずれにしても、資格はEU内で取得することが条件であり、しかも、年1回再評価がなされるということであった。日本の看護制度との在り方の違いが印象的であった。
 病院は187床を有し、大部分の病室は個室または二人部屋であり、さらに特別室がある。病室には、電話とフランス及び世界各国の15チャンネルを受診できるテレビが用意されている。実際個室を見学させていただいたが、ベッドの広さ、床頭台や室内スペースなどの環境面は日本の個室と似通っていた。
 海外駐在邦人とその家族の健康管理のために、日本人医師、看護師・通訳のアシストにより、日本語で健康診断が受けられる。結果報告には既往歴、検査結果、各疾患の危険因子、今後の治療が必要な場合は病院内の専門医との早急な連絡等が要領よくまとめて記載され総合判定を日本語訳とともに渡される。
 また、外来、入院患者への情報提供を中心に多くのニーズに応えるためのウェルカム・サービスや、日本人患者のためには日本語専用サービスが設けられている。ボランティア活動も、受付、入院患者訪問、図書室管理、英仏語のお料理レシピの出版など活発になされている様子であった。100ヶ国以上の外国人を受け入れているということで、そのサービス精神は見習うべきところを多く感じた。
 パリ・アメリカン・ホスピタルはプライバシーが徹底し、近代的な医療や看護態勢が備わっており、さらに患者にとって何よりも行き届いたサービスの提供がなされている病院という印象であった。

検査室内

American Hospital of Paris
病 室
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