喘 息 の 話


       喘息をなくそうとしたら、喘息とはどんな病気か正しく知ることが大切です。


喘息とはどんな病気でしょう?


喘息とは一時的に気管支が収縮して細くなり、このために呼吸が苦しくなる病気です。
つまり、喘息の患者さんは(ふだんはなんともなくても)夜中から明け方にかけて呼吸が苦しくなり、一息一息に
「ヒューヒュー、ぜいぜい」と音がするようになります。痰がのどにひっかかり、咳もよくでます。

ひどくなると呼吸困難のために横になって寝ることができなくなり、一晩中、布団の上で座り込んでいなければなりません。しかし、夜が明けてあたりが明るくなる頃から少しずつ症状がおさまってきます。
だから昼間は
全く無症状のことがよくあります。重症の人では朝になっても一向に呼吸困難や咳がおさまりません。そのため体は疲れきってしまいます。もっとひどくなると呼吸ができず、窒息してしまいます。
こうなると入院治療が必要です。
患者さんによっては風邪をひいたときや、坂道や階段を登ったり、重い荷物を持つ、マラソンで長距離を走る、など少しきつい運動をすると
「ヒューヒュー、ぜいぜい」いう呼吸困難や咳が昼間でも起こり、このため日常生活(学業・勤務や余暇など)が満足におくれない人も多くあります。
又、夜間の
咳だけという喘息もあります。(咳発作型喘息)


ではなぜこうなるのでしょう?


 鼻から吸われた空気は、のど→気管→気管支を通って肺の中に入ります。
気管支は“空気の通り道”というわけです。

喘息の人ではこの気管支に『慢性炎症』があるために
気管支が過敏な状態になっています。
それで普通の人では何でもない少しの
変化(例えば、昼と夜の差)や刺激(家のホコリや冷たい空気の吸入、走るなどの運動、風邪をひくなど)に過敏に反応して気管支が収縮し細くなってしまうのです。

また、過敏になった気管支は少しの刺激で容易に咳がでたり、気管支の粘膜からの分泌物がふえて痰がからむという事がおこってくるのです。
分泌物が多くて細くなった気管支を努力して空気が出入りしているときにあの
「ヒューヒュー、ぜいぜい」という音がするのです。気管支が十分広がっていて安らかな寝息をたてて眠っているのとは正反対です。

気管支が『慢性炎症』によって過敏になっていること。
これが喘息発作の原因です。ですからこれを取り除けばよいわけです。

風邪をひいたときや、きつい運動をしたときに「ヒューヒュー、ぜいぜい」いうので風邪や、きつい運動が
喘息発作の原因と思っている人がいます。しかしそれは間違いです。
風邪をひいても、激しい運動をしても
誰もが喘息発作をおこすわけではありません。

くどいようですが繰り返しますと、気管支に『慢性炎症』があって、そのせいで気管支が過敏になっている人に、何らかの刺激が加わって過剰な反応がおこり、気管支が細くなり、分泌物がふえ(痰がからむ)、咳が出て止まらないというのが喘息発作の正体なのです。


  


では正しい治療法とはどんな方法でしょう?


気管支の『慢性炎症』を静め、できればこれをなくして、気管支の過敏さを取り除くことです。

そうすれば、大きな刺激が加わっても気管支は異常な反応をしないはずです。『慢性炎症』に対してはステロイド剤という薬が非常によく効くことが以前から知られていました。しかし、内服や注射の形ではだめです。
気管支の『慢性炎症』にはよく効きますが、それ以外の場所で副作用を出すからです。
だから
気管支だけに効く『吸入専用ステロイド剤』を使うのです。
これを毎日決められた時間に
決められた量を吸入するのです。(吸入ステロイド療法)

症状がないからといって、吸入をやめてはいけません。
症状のないときは、たとえ気管支が広がっていても『慢性炎症』はまだなくなってはいません。だから何か刺激が加わると喘息発作がおこります。

 「吸入ステロイド剤」の定期持続吸入を根気よく規則正しく続けると気管支の『慢性炎症』が、徐々に軽くなっていきます。
それにつれて気管支は少しずつ安定していきます。だから少しくらいの刺激や変化が加わったくらいでは喘息発作がおこらなくなります。

『慢性炎症』がなくなるまでの期間は患者さんごとにいろいろです。
一口に喘息といっても重症、軽症いろいろあるからです。
現在この方法が一番新しく、正しい理にかなった治療法と認められています。
長期間続けても副作用はほとんどありません。
だから喘息の妊婦さんでも、妊娠初期から授乳中も使用しています。


今までの治療法はどんなものだったのでしょう?


喘息発作のときには主として「気管支拡張剤」という薬を吸入や内服や点滴などの形で使用していました。
この方法では、縮んだ気管支が一時的に広がっていったんは楽になりますが、「気管支拡張剤」の有効時間が切れて、又何らかの刺激が加わると再び気管支は収縮してしまいます。

この収縮(つまり喘息発作)を繰り返すごとに『慢性炎症』はどんどん悪化します。だからより軽い刺激でも喘息発作がおきるようになり、その症状もひどくなります。

そして徐々に「気管支拡張剤」も効きにくくなっていきます。
「気管支拡張剤」のほかには「抗ヒスタミン剤」という薬も使われていました。
これは『慢性炎症』によっておこる症状をしずめようとするものですが、炎症そのものには無効です。

『慢性炎症』を、
より根本からしずめる治療は日常全く行われていなかったのです。
重症発作の時にはステロイド剤が
注射や内服の形で使われていましたが、前にも述べたようにこの形では副作用のため継続して使用できないのです。





吸入ステロイド療法で喘息発作が起こらなくなっても吸入ステロイドをやめてはいけない理由をもう一度、お話します。


ステロイド吸入療法を続けると遅かれ早かれ誰でも喘息発作は起こらなくなります。
そして、ついには風邪をひいても激しい運動をしても
「ぜいぜい、ヒューヒュー」いわなくなり、咳もでなくなります。普通にここまでくるには長い時間がかかります。

主治医はこの状態をみてほかの所見など考え合わせて吸入量をゆっくりと減らすようにアドバイスするでしょう。
吸入量を0まで減らすことはできるでしょうか?これは大変難しいと思います。

喘息になったばかりの人なら吸入ステロイド療法を中止できるかもしれません。
しかし、
5年、10年と喘息発作に悩んできた人では、この方法で喘息発作が0になったからといってこの治療法をやめると、しばらくして、また喘息発作がおこるようになるでしょう。

この方法で有効なのは
喘息発作をなしにすることであって、気管支の『慢性炎症』を完全に消失させることではないからです。
気管支の『慢性炎症』はそれほど
根深いということが確認されています。
だから症状がなくても必要最小限の吸入は続けるべきです。
たとえ1日、朝夕2回の吸入でもこれから何年も続けねばならないかと思うとうんざりするかもしれません。

 しかしよく考えてください。
毎年、日本では喘息発作で
3〜4000人が亡くなっています。
この人達は喘息発作がなかったら死ななかったのです。そして吸入ステロイドが正しく使用されていれば喘息発作はなしにできるのです。

喘息の人にとってステロイド吸入療法は日常の自分の体への“お手入れ”と考えてください。
入浴や歯磨きがめんどうですか?
自分の体をきれいに保つためには毎日の“お手入れ”がいります。
患者さんにとって吸入ステロイド療法は
喘息発作0状態』を維持する、手軽な体への“お手入れ”なのです。
毎日“お手入れ”をして
喘息のない毎日を維持するか、これをせずに喘息発作の起こるにまかせるかは一人一人が自分で決めることだと思います。



今までアレルギー性疾患(アレルギー性鼻炎・花粉症・アトピー性皮膚炎・喘息)のお話をしてきました。(専門的で分かりにくかったかもしれません)

この3つの話で共通することがあります。お気づきの人もいると思います。
そうです、アレルギーは、アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息の『必要条件』ではあるが、『十分条件』ではないということです。

 時には必要条件でさえないことがあります。
例えば成人喘息の約50%はどれだけ調べても抗原が見つかりません。それでも喘息はおこるのです。

好酸球増多性鼻炎というアレルギー性鼻炎の1タイプでは、やはり何ら抗原が見あたらず、従って、それらに対する特異抗体も認められません。
こうした事は、これらの真の原因がアレルギー体質ではなく、
鼻や気管支の粘膜の異常にある事を示しています。

アトピー性皮膚炎の場合は
表皮の異常(カサカサ肌)という事になります。そしてアレルギーは、その異常を更に増強し、症状を出させる契機の1つと考えられます。

アレルギー(異物に対する過剰反応。アトピーはその1種です)と3つの疾患との関係。
中心とする考え方、治療法を図示してみました。